インタビュー
2004/04/26 20:06 更新

Interview:
MS古川氏が語る、「日本に戻った本当の理由」と「自身の夢」

誰もが気になる「何故古川氏は日本に帰ってきたのか」という質問を同氏に対して投げかけてみた。すべての行動は、同氏があと10年で実現したい夢に向けた第一歩であることが伺える。

 2000年からMicrosoftのバイスプレジデントを務めていた古川享氏は、2004年2月からはマイクロソフトのNTO(National Technology Officer)も兼務している。4月22日に発表された、古川氏を長とする「技術企画室」が何を手がけていくのか、そして同氏があと10年で実現したい夢は何なのかを聞いた。

この記事の見出し一覧
1. サンマイクロシステムズとの和解でもたらされるもの
2. EU制裁は問題の本質についての論議が不十分?
3. オープンソースに対するスタンス
4. 日本に戻ってきた本当の理由
5. あと10年でやり遂げたいこととは?


古川氏

「自分のようなオジさんにしかできないこともある」と笑う古川氏

サンマイクロシステムズとの和解でもたらされるもの

ITmedia サンマイクロシステムズとの和解によって生じる影響にはどのようなものがあるでしょうか。

古川 次の建設的なことにお互いのエネルギーを投じることが、産業全体にプラスとして作用すると思います。係争で勝った負けたという結果の下に約20億ドルものお金が動いている、といった話ではありません。

 JavaもJ2EEもいいけれど、.Netとの相互運用性をどうするのかといったときに、結果として二者択一を迫られてしまう状況は、お客様にとってプラスではないでしょう。どちらかだけを信じるのではなく、いいところがあればどちらも使いたいのがお客様の本音でしょうから。

 Webサービスになったら相互運営ができると語っていた実態が、特定のハードでは動作しないという制限を持っていたとしたら、それは絵に描いた餅で終わっていたかもしれない。今回の和解によって、どちらのアプローチでも、最終的には同じことを実現可能になったことが重要です。

ITmedia この和解で、シングルサインオンの連係、DBの相互運用性などが考えられますが、それらを実現していく優先順位はどう考えていますか?

古川 Javaの相互運用が一番近いところにあるのかなと個人的には思います。ただ、Javaの部分に関しては、すぐに弊社が何らかのサポートをするのではないといえるかもしれません。どちらの環境でもJava、あるいはJavaが使えるVMをサポートしてくれるのかなと思ったのですが、もう少し中長期的な視点から考えていこうという状態ですので、どうもそうではないようです。個人的に希望していた部分とは少し外れたかなという気持ちはあります。

 いずれにせよ、今回の話は相互運用の道が開けた、というのがポイントですね。

EU制裁は問題の本質についての論議が不十分?

ITmedia 欧州委員会のMicrosoftに対する裁定は、米国と欧州で独禁法の理念が違うために起こったという見方があります。欧州では、独占企業が競合企業に対して与える影響が消費者に対するそれより重きを置いています。つまり、Microsoftの慣行がRealNetworksなどの企業にどのような影響を与えるかという点を、米国の当局よりも重視した結果だといえますが、この件についてはどうお考えですか?

古川 採択は採択として尊重しなければならないと思いますが、主張されている内容がビジネスの理にかなっているかという点では疑問が残ります。

 解決策として何がいいのかという点では、私たちから提案させていただいたように、Media Playerをはずしたバージョン以外に、欧州の企業で開発されたプレーヤーも自由に選択可能にした形で出荷するというほうが、ある意味建設的ではなかったのかなと感じています。

 また、現状の問題についてはとりあえずの合意を得たと言えるでしょうが、今後出てくるであろう新技術に対してどう扱うのかといった問題に対しては議論が進んでいないというのが大きな問題です。例えば、アンチウイルスソフトの市場でいうと、例えば今後、私たちがセキュリティ面で新しい技術をOSに組み込んだりすれば、もしかするとその市場は細るかもしれません。だからといって、アタックを受けやすいOSを出荷し続けることがいいのかというとそうではないでしょう。

 ユーザーの利便性を損なう形で発展が阻害されることは弊社としても望んでいないことは主張していかなければならないのです。EU諸国の企業の利益を損ねるかもしれないという予測のもとに、将来の発展を阻害されては困りますというのが弊社の立場です。

 「マイクロソフトは市場の中で優位に立つために、競合製品があるにも関わらず、自社の製品を標準で搭載することで、競合製品をつぶしにかかっている」という論調は、問題の本質から離れてしまっているように思います。

オープンソースに対するスタンス

ITmedia 先日、日中韓でLinuxを基盤としたOS開発の協力で合意していくといったニュースがありました(3月31日の記事参照)。一方、Microsoftも、「WiX」(Windows Installer XML)をCPLライセンスで提供するなどしていますが(4月6日の記事参照)、オープンソースに関してはどう考えていますか?

古川 きちんと判断してほしいですね。中国やドイツは国を挙げてLinuxを推していると考えている人が多いようですが、実際にはそうではありません。Linuxの導入がニュースになっても、Windowsの導入がニュースになることは稀です。どうもそのあたり、日本ではバイアスがかかって伝わっているように感じます。また、3国間で共通のコンポーネントを作っていくとしても、それが誰の責任の下に開発され、誰を潤すのか、という点についてはあまり明確に議論されていない気がしました。

 オープンソース、ここではGPLの下で提供されるソフトウェアに関して言えば、それによってソフト産業が脅かされてしまう可能性があるという危機感を持っていることは、商用のソフトを扱っているという立場から理解してほしいと思います。ただし、オープンソースのコミュニティに対して、お互いが持つ気持ちの上でのギャップをどう埋めていくかということと、実際に、必要なものをきちんとツールとして提供する姿勢を明確にし、オープンソースとの接点を取って行きたいと考えています。

 オープンソースというと、それを採用すれば日本の産業が潤うのか、という議論を残したまま、アンチマイクロソフトの飛び道具として扱う向きがあることは疑問に思います。

日本に戻ってきた本当の理由

ITmedia 実際のところ、古川さんが日本に戻ってこられたのは、日本に何らかの問題、またはやり残したことがあるからではないでしょうか?

古川 このインタビューの前に行った発表会では、主要なポストを外人が占めていることを指摘した質問がありましたね。しかし、むしろ外人から学ぶこともあると外に向けて伝えないと、ああいったバイアスは消えないと思います。

 彼らは、過去の実績を調べ上げ、かつ、社内の声を吸い上げるなどの作業を入念に行った後にお客様に伺って、お客様の要望に答えようとします。日本人かどうか、日本語が話せるか否かといった問題は確かにあるでしょうが、それはお客様の要望に答えるというアクションから見れば、ずっと下のレベルの問題でしかありません。

 例えば、日産のカルロス・ゴーン氏の例を見ると、最初は社内外から酷評されていたかもしれませんが、結果としてすばらしい成果を残されましたよね。これと同じようなエッセンスがあると思います。彼らは、中堅どころにいる人間に対して、マネージャーとはどういったものなのかを示してくれています。そういった部分は素直に学ばなくてはならないとつくづく思います。

 しかしそれでも、弊社の社員でも「いやあ、上司が外人で……」とぼやく人間がいるのかもしれません。そうした人たちに私がよく話すのは、「すべての権限をお前に譲ると言われるくらいの成果と信頼関係を作ってみなさい」ということです。重要なのは、シアトルのリソースを要求するくらいのコミュニケーションスキルと、自分がやっていることに対する理解を周りから取り付けることです。残念ながら、そうしたスキルは外人のほうが持っています。であれば、そうした人間がいる間に、いい部分は盗まなくてはなりません。

「外野席から野次を飛ばしているより、フィールドに出てきて実際にやってみる」意識を持ってもらいたいですね。そのほうが面白いはずです。

ITmedia しかし、「実際にやってみろ」と言われても、なかなかモチベーションに繋がらない気がします。社員のモチベーションはどのように高めていくのですか?

古川 外人の考え方として、物事を微分して考えたときの接線の傾きを基に、短い期間で結論を下すことはあるでしょう。一方日本人は、沈黙は金で、黙ってやっていても過去の実績の積分で考えるところがあります。中長期から見た視点で物事を捉えていく重要性については外人にも理解してもらう必要はあります。

 私が帰ってきたのは、誰かの代わりに何かをやったり、組織の中で自分が長になったり、売り上げを立てたりするためではありません。弊社ではまだ、手を挙げて発言すれば、「ではやってみろ」ということでリソースが割り当てられる会社です。手を挙げないでくすぶっている人間に対して、彼らのアウトプットをほめてあげたり、時には叱ってあげたりして、現状打破のための引き出しを開けてあげることが私の役目であり、ひいては社員のモチベーションの向上につながるのではないかと思っています。そういったのは私みたいなオジさんでないとやれないのかもしれませんね。

あと10年でやり遂げたいこととは?

ITmedia 古川さんは現在50歳ですよね。定年まであと10年だとして、それまでにやり遂げたいことは何でしょうか?

古川 コンピュータが目の前から消え、人間と人間が、時間や感情を共有できる状態にすることですね。人間の持てる能力が広がったという感覚を、自分たちが関わったデバイスやサービスで実現できたらいいなと思います。道具の存在が薄くなってきて、体の一部として道具を使っているというのが一番格好いいんじゃないでしょうか。

 自動車の話で例えましょうか。自動車を所有することで、例えば電車の終電という制約を受けず、24時間移動できることになります。また、突然海が見たいと思えば、それが実現可能となるなど、自分の中で発想と距離感と世界観が大きく変化したはずです。

 自動車などは、自分の手足の延長といえるかもしれません。そう考えると、コンピュータは、自分の記憶など脳の延長みたいなものとして存在するのかもしれません。

 例えば、自分の子供の姿を映像として残すことは現在でもできますが、そこには本当の意味でやわらかい部分は保存されていません。撮影した時の気持ちなどまで含めることができれば、単に映像を残すのに比べて、非常に素敵なものになるでしょう。今はまだ、道具の特性に縛られていると思いますが、そういったものを意識することなく、時間や感情を共有できればと思いますね。

ITmedia その夢を実現するため、古川さんを長とする技術企画室はどういった行動を取るのですか?

古川 1つにはリサーチの部分の支援だといえるかもしれません。いきなり研究所を作って、100人の優秀な研究者を集め、「さあ研究をしなさい」では消化不良を起こします。日本に優秀なエンジニアがいるのであれば、そうした人たちを海外に送り出すなど、より研究に集中できるような支援を行うことなどができると思います。

 また、くすぶっている人間というのはうちの社内に限らず、もしかすると日本の研究機関や大学の研究室などにもいるのかもしれません。埋もれてしまっているすばらしい研究成果を世の中に出すためのきっかけを作っていければとも思います。

 具体的な部分で言えば、大学との連携、そして日本の研究所との共同研究、個人として優秀な人間は私たちが支援して海外に送り出すことなどが挙げられます。日本人が日本で作って、日本で勝ってほしいというレベルではなく、国際的なコミュニケーション感覚も併せ持った人間を育てていければと思います。

ITmedia 産学連携については、早稲田大学でデビッド・ルブラン氏が開講しているWriting Secure Codeなどがあります。今後1年のスパンで考えたとき、産学連携はほかにも予定されていますか?

古川 そうですね。現在の東京大学と早稲田大学以外にも、4〜6校、都市圏に偏ることなく、地方でもこういった事例を具体的に進めていけるのではないかと思います。特に、地方の場合は、そこにある地場産業とも協力した形での事例も生まれてくるでしょう。

 また、3カ月から半年以内に日本の研究機関との取り組みをお話することもあるかもしれませんね。

[西尾泰三,ITmedia]

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