「自然な出会いだった」――mixiで結婚した2人:ITは、いま──ふたり論(2/2 ページ)
共通点ゼロの2人を結婚に導いた“仲人”は、ソーシャルネットワーキングサイト「mixi」だった。
廃墟デート
廃墟が好きなユリヤさんと、鉱物が好きなMottyさん。廃墟と鉱物とが同居する秩父鉱山は、2人にとっては格好のデートスポットだった。メールで連絡を取り合い、秩父の駅で待ち合わせる。オフ会に慣れていた2人は、そんなデートも自然にできた。
Mottyさんは、自身のサイトに集まる仲間と、オフで何度も会っていた。ユリヤさんは、パソコン通信の時代から、オフ会に参加していた。ネットで出会った人とオフで会うのは、特別なことじゃなかった。
5月22日の朝。秩父の駅に現れたユリヤさんは、予想以上に美しく、明るい女性だった。Mottyさんは、博識でおしゃれで、mixiで見るよりも、ちょっぴり無口だった。
2人は秩父の廃墟を訪ね、何枚も写真を撮った。廃墟の外観や内装、廃墟にたたずむお互いの姿……。「その日に限って、なにもかもがうつくしかった」――Mottyさんはmixiの日記に、こう書いている。
鉱山を出て、埼玉にあるユリヤさんの実家の近くに行った。米軍基地跡地の森を歩き、ユリヤさんお気に入りのバーで夜を過ごし、ホテルで朝を迎えた。翌日は群馬県に足を伸ばし、碓氷峠の廃線を訪ね、軽井沢に向かった。
mixiから2人同時にいなくなった――2人のマイミクたちは、デートにうすうす気付いていた。毎日ログインするのが当たり前だった2人。突然同時に消えたのは、明らかに怪しかった。
もともと隠すつもりもなかった。旅から戻った翌日、Mottyさんは旅の写真を何枚も、mixiにアップした。最後に、ユリヤさんの写真を3枚載せた。マイミクたちは、2人の交際を確信した。
近づく結婚、遠ざかるmixi
そのころから、Mottyさんの日記には甘いノロケがつづられる。マイミクたちはそんな彼を温かく見守り、たまに茶々を入れる。こんな状態が、2カ月あまり続いた。
2人の間には、mixiという媒介が徐々に、不可欠ではなくなってきた。「きっかけはmixiだったけど、その後は普通の付き合いだった」と、Mottyさんは語る。2〜3週間に1回は会っていたし、携帯で連絡をとることが、mixiメールよりもずっと多くなっていた。7月ごろには、mixiにログインすることも減っていた。
そのころ2人はすでに、結婚を考え始めていた。「結婚してくれないかって、夏に言われたよ」と話すユリヤさんに「覚えてないなぁ」とMottyさんはちょっと驚く。
Mottyさんの記憶によると、正式なプロポーズは翌年、今年3月になってからだ。mixiコミュニティーで開いたジャズイベントの打ち上げの席。2人共通のマイミクに「今言いなさい」と迫られ、思い切ってプロポーズしたという。「ベロンベロンだったから、何言われたか覚えてないけど」と、ユリヤさんは笑う。
mixiで婚約発表したのは今年3月13日。Mottyさんは「新居が決まりました」という日記で、ひっそりと婚約を打ち明けた。ユリヤさんは3月22日の日記で「マイミクのMottyと結婚します!」と宣言した。40以上の祝福コメントが付いた。
結婚式はジューンブライド。6月11日だった。披露宴の司会は、Mottyさんをmixiに招待してくれた彼。2人共通のマイミクも3人呼び、北軽井沢の小さな教会で、幸せな結婚式を挙げた。
2人が知り合った当時、人口数千人だったmixiは、1年ちょっとで100万都市に成長した。気づいたら、隣は知らない人ばかり。mixiで出会いを求める男女につけ込む、犯罪まがいの話もちらほら聞くようになった。
彼らがあのとき、普通に出会い、普通の恋ができたのは、奇跡に近いできごとだった。「今のmixiだったら、きっと出会えないと思う」――2人はそう言って、うなずきあった。
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