「ネットは遊び場」――「字幕.in」を1人で作る25歳・無職:ITは、いま――個人論(3/3 ページ)
「大人はネットをビジネスで使っているかもしれないけど、ぼくにとっては遊び場」――「字幕.in」など50以上のサービスを1人で運営する25歳無職の男性はこう語る。新サービスを作り、誰かが使って反応をくれるのが、とにかく楽しいという。
はてなブックマークで話題になったWebキャプチャ生成ツール「WebScan.JP」は、自宅にサーバを置いていたら、蹴飛ばして電源をダメにし、サービスが止まってしまった。「ぼくの家、散らかってるんですよ……」。そんなトラブルを防ぐため、今は外部のレンタルサーバを利用している
1つは、実際に動く様子を見れば、新たな発想が生まれるから。例えば字幕.inは、最初は動画に字幕を載せるだけのサービスだったが、動かしてみてから「あの機能も付けられる」と次々に思いつき、順次サービスを拡張。音声読み上げ機能、投票機能、タグ機能などを追加していった。
もう1つは、サービスを公開し、ユーザーやメディアから反応がくれば、モチベーションが高まるためだ。「はてなブックマークで上位に上がったり、ネットニュースに取り上げられられることが、かなり励みになってます。mixiの日記で、新サービスのドメインで検索し、反応を見たりもします」
自分の成長が、サービスの成長
人との出会いが、サービスを加速する。字幕.inに動画投稿機能が加わったのは、動画投稿サイト「ラグーン」を運営するジオマックスに知り合いがいたから。メッセンジャーで話しているうちに、ラグーンの機能を字幕.inに導入することが決まった。
PCは松下電器産業「Let's NOTE Y4」と「同W5」を使っている。普段の作業はディスプレイの大きいY4で行い、W5はサーバログ監視用。それぞれデュアルディスプレイになっており、机には4台のディスプレイが並んでいる。外出時は軽いW5を持ち出す。ハードにはそれほどこだわりがないという
自分の成長も、サービスを変えていく。字幕.inの英語版「Subtitle.in」をリリースしたのは、「周囲に英語が分かる友人が増え、自分も英語が少し分かるようになってきたから」だ。
字幕.inでできること、やりたいことは、まだまだある。例えば、動画の音声吹き替えサービス。「ホットペッパー」(リクルート)のCMのように、動画にまったく関係ない音声を付ければ、面白いコンテンツになりそうだ。
みんなで1つの字幕を作ることにもチャレンジしたい。例えば、著作権がフリーになっている名作外国語映画に字幕をつけるコンテストを開き、知られざる名作を発掘するとか、新作映画の予告編に字幕を付け、プロモーションに利用してもらう、とか――ビジネスの可能性も広がる。
聴覚障害者が動画コンテンツを楽しむための機能も付けたいと考えている。公開するAPIの種類も、もっと増やしていきたい。
「今まではWebの中に閉じ込もり、機能を面白くすることでサービスを発展させてきました。でも今は、いろんな企業や人がかかわることで、サービスはさらに面白くなるということが分かり始めた。ぼくが大人になったと、いうことかもしれませんが」
APIが個人を強くする
個人でも企業並みのことができる時代になってきた、と実感している。サイト売買のマーケットプレイスを通じて、IT企業の社員や役員と知り合えたし、Webサイトやメール、メッセンジャーで人脈は広がった。個人サービスでもきちんと作ればメディアに取り上げられ、それがプロモーションにもなる。
また、公開されているAPIを利用すれば、企業と契約を結ばなくても、潤沢なデータベースを公式に使える。「外部のリソースを使ってサービスを作るのが得意な自分にとって、『マッシュアップ』という言葉ができたのは嬉しい」
マッシュアップが流行する前は、外部のリソースを使ったサービスは「パクリ」と言われ、リソースの提供元にも嫌われた。例えば、2ちゃんねるで話題のニュースをジャンルごとに自動掲載する弐ちゃんねらニュースも、リリースしたときは「パクリ」と叩かれた。だが今は、企業が自らAPIを公開し、利用を推進する時代。既存のシステムを利用したサービスが、格段に作りやすくなった。
無職から起業家に……?
職業欄には「無職」と堂々と書いている。「お金は、サーバ費用とネコのえさ代を稼げるくらいあれば十分」。運営するサービスからの広告収入でサーバ代と生活費は足りるし、サイトを販売すればお金になることも知っている。このままでも暮らしていける。
だが最近は、起業にも興味が出てきた。個人での展開は素早く動けるため、サービスのスタートダッシュでは有利だが、信用力がない。会社組織なら信用があるため、他の企業と一緒にビジネスしやすくなるし、収益が上がれば、より大きなサービスにもチャレンジできる。
「サービスが成り立ってきて、いろんな人に影響を与え出したら、起業したほうがより面白いことができるかな、と思い始めました。『字幕.in』については、そろそろそういう段階かな、と。ぼくの場合は、起業したいからサービスを作るのではなく、サービスが先にある」
個人と企業の中間のような組織ができれば面白いと思っている。「フットワークが軽く、常識や制約にとらわれない個人のような自由な雰囲気を持ちながら、多くの企業や組織とネットワークしていけるような会社ができれば」
――あなたにとって、ITとは
「大人はみんな、ネットをビジネスで使っているかもしれないけど、ぼくにとっては遊び場というか、楽しい場所。表現の場であり、自分を試せる場所という感覚があります」
「ネットサービスは、単純なサイトというよりも、ぼくの作品という感覚。ネットのおかげで人から認められたし、情報も入ってくるし、人とのつながりも増えていきました」
「Webに出会えなかったら何やってただろう……今の時代に生きてなかったら、本当、ヤバかったと思います」
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