「ダウンロード違法化」のなぜ ユーザーへの影響は:津田大介さんに聞く(前編)(3/3 ページ)
違法動画や楽曲は、アップロードだけでなくダウンロードも違法――著作権法のそんな改正に向けた動きが進んでいる。この動きはなぜ生まれたか、法改正されればユーザーにどんな影響があるのか。津田大介さんに聞いた(→後編)。
まず架空請求ですが、これまでは、こういう架空請求は成人男性がネットでアダルトサイトを見てしまいがちという「後ろめたさ」をキーにしていました。「おまえは有料のアダルトサイトを見ただろう」と、見てもいないサイトについて、利用料を請求するというものです。
もちろん、著作権法と架空請求詐欺への対応は、まったく別の問題です。「違う問題を一緒くたにして語るな」という批判があるのはわかりますが、ぼく個人は今回の改正がそうした大きな社会不安をもたらすきっかけになることは疑いがなく、大局的な視点で見れば無関係と言い切るのもおかしいのではないかと思っています。
「違法サイトからのダウンロードが違法」と法改正されることによって、ユーザーは、動画や楽曲をダウンロードすることに後ろめたさを覚えるようになり、それが悪質な業者につけ込まれて「おまえは違法着うたをダウンロードしただろう、いくら支払え」という架空請求が広がる可能性はかなり高いんじゃないでしょうか。
テキスト・画像に適用が広がる可能性も
もっと大きな不安は、「なんで動画や音楽だけダウンロードが違法なんだ」と他の業界が反発し、適用範囲が広がる可能性です。今回の議論では、適用範囲を録音録画に限ったのですが、テキストや静止画など他のコンテンツの著作者団体が、「うちも適用範囲に入れろ」と文化庁に要請していく可能性がある。
録音録画だけなら、音楽やテレビなどに興味がない人には関係ないのですが、テキストや写真になるとすごく範囲が大きくなり、ユーザーの情報入手を極端に制限する――ということにもなりかねません。
適用範囲が広がれば「写真を気に入ったから右クリックで保存」という、ネットを普通に利用している人にありがちな行為も違法とされたり、ブログにコピペされた新聞記事の内容を、印刷したりダウンロードしたりする行為が違法とされる可能性もあります。
新聞業界などは最近ネット事業を本格化させていますから、これまで無料で出していた記事コンテンツを有料で見られるサイトを作るかもしれない。そうなった時に「音楽や動画は守られているんだから、われわれが有料で出している記事テキストや写真も守ってくれ」と言ってくる可能性は十分考えられる話でしょう。
この問題についてはぼくも非公式にほかのコンテンツ業界の著作権担当にも取材調査していますが、おおむね「音楽、放送がそういう対応をしたのなら、我々も要望せざるを得なくなるし、実際にそうする団体も出てくるだろうね」という反応が多いですね。
そういった場合に、文化庁はどう対応するのか。「音楽・動画とテキストや画像は違うものです」と切り捨てられるかといえば、それも難しいと思うんですよね。文化庁の川瀬さんは「実際に録音録画以外の業界から要望があっても、すぐに応えられるかどうかは難しい」とおっしゃってましたが、しかし、そのあたりも結局はロビーイングをどれだけ本気でやるのか、という「政治」の世界の話ですしね。
「ある時ネットの使い方がガクンと変わる」怖さ
将来の危険ばかりあおってもしょうがないんですが、それでもぼくは「ある時ネットの使い方がガクンと変わってしまうんじゃないか」という素朴な怖さを感じています。実際のところ、今回ダウンロードが違法とされ、その後数年経っても、違法な動画や音楽が全然減らないという状況があったら、次は「刑事罰つけよう」とか「著作権侵害を非親告罪化しよう」なんてことにもなり得ると思うんですよ。
すると「あのブログは勝手にコピペしてる! 音楽をアップしてる! 逮捕だ!」みたいな話になり、ある種、個人的な恨みを晴らすためのツールに使われたり、街で無灯火で運転してる自転車を止めさせて、盗難自転車を探すみたいにネットの著作権侵害が「警察官の切符かせぎのツール」として使われてしまう恐れも出てくるんじゃないかと。
声高にそういう危険性ばかり言うのはぼくも好きじゃないんですが、それでもそういう方向に変化していく可能性を考えると、「最初の一歩」を踏み出させる前に十分に議論することが必要なんじゃないかと思っています。
「法律が変わったところで現実はそんなに変わらないならいいじゃないか」ということで済ますのではなく、ネットユーザーの声を交えた議論を慎重にしていってほしいな、と思います。音楽業界の関係者より、インターネットを日常的に利用する人の方が、数の上では間違いなく多いわけですからね。
(後編「『ダウンロード違法』の動き、反対の声を届けるには」に続く)
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