「ダウンロード違法」の動き、反対の声を届けるには:津田大介さんに聞く(後編)(4/4 ページ)
著作権法を改正して違法サイトからのダウンロードを違法にしようという動きが進んでいるが、最も影響を受けるネットユーザーは議論のかやの外。ユーザーの声を届けるには、どうすればいいのだろうか。前編に続き、津田大介さんに聞いた。
CD売り上げが伸びている時期はラジカセやミニコンポが安くなった時期とすごくリンクしてるんですよね。ちょうど1987〜89年ごろからCDの売り上げが大きく伸びていて、それって3、4万円くらいで買えるCDラジカセが出てきた時期なんですよ。「一家に一台」ではなく、「一人一台」という環境が音楽というコンテンツをよりカジュアルに楽しめるものにしたわけです。
DVDだって「プレイステーション2」という「高性能ゲームもできて、DVDも見られる」という画期的な商品が出なかったら、もっと普及は遅れたんじゃないですか。再生機器が普及したからこそ、再生する「中身」も伸びていく、ということだと思うんですよね。
だから、デジタル機器での再生が前提になっている音楽や映像ビジネスにおいて、メーカーとコンテンツ屋は「対等」だと僕は思ってるんです。コンテンツホルダーがメーカーの子会社だった昔は状況も違ったかもしれませんが、実際そういう状況でもこれまで「持ちつ持たれつ」でやってきたわけですし、今は「親」から独立した存在になっているコンテンツホルダーも多い。メーカーや技術の進化が自分たちの産業を大きくしてくれたという面があるにも関わらず、都合悪くなったら「メーカーが録画機器を販売するから損害を被っている」と言うのは、あまりにご都合主義というか、一方的ですよね。
違法サイトからのダウンロードもまさに同じ構造を抱えていて、「YouTubeが売り上げに被害を与えている」という議論もあれば、「視聴機会を増やして新しい市場を作っている」という議論もある。ニコニコ市場なんて分かりやすい例ですよね。
ぼくはそれって「どっちも正しい」と思うんですよ。ある面を切り取れば損害はあるだろうし、逆に面を切り取ればプラスだってあるに決まってる。そのあたりはコンテンツの種類や、ネットとの親和性なんかでも変わってくるでしょう。だったらとりあえず「プラマイゼロ」という地点からケース・バイ・ケースで目の前の問題に対処していくしかないんじゃないかと。
「プラマイゼロと考えれば、補償金制度はいらないんじゃないか」というのが僕の原則論ですけど、同時に「補償金が十分に安い金額なら別にあっても構わないかな」と思う部分もある。だから、「自由にコピーできること」「音楽などに興味がない、メディアで録音録画しない人が補償金を支払わない仕組み作り」を条件として整備できないものかなと思っているんです。
プラスマイナス両方あるなら、どちらかに偏って規制するのは良くない。権利者側ばかり「過保護」にしたら、結果的に業界の自助努力やクリエイティビティーを失わせる結果になるんじゃないですか。業界が勝手に自滅するのはいいっちゃいいんですけど、それで巻き添えになるアーティストやクリエイターのことを考えると、なかなかそうも言えない。やっぱり落としどころを探る努力はみんなでした方がいいんじゃないかと思うんですよね。
「文化の発展」につながる著作権のあり方とは
―― 著作権法は第1条で「文化の発展に寄与する」という目的を掲げています。一般のネットユーザーは著作権のしばりをもっとゆるくしてほしい人が大半でしょうし、権利者側はもっと厳しくやってほしいと考えています。文化の発展につなげるには、どうしていくのが最善なのでしょうか。
著作物をフリーに使えた方がユーザーにとってはうれしいことは確かですよね。例えばニコニコ動画では「初音ミクの絵を描いてみた」「既存の楽曲を初音ミクで演奏してみた」など、無断2次利用によってものすごい勢いで新しい創作が生まれている(「初音ミク」に関する記事参照)。ただ、それによって誰かの権利も侵されていて、それは守るべきだ、という考え方があるのは当然です。
だから僕は著作権侵害が「親告罪」というのはすごく正しいと思ってるんですよ。著作者が「いい宣伝になる」と思うならニコニコとかYouTubeを黙認できるし、使われ方がまずかったら削除を要請することもできる。どこまで「見逃せるか」というのは、著作者に与えられた重要な権利でしょう。ところが、非親告罪化すると著作物とは関係のない警察とかユーザーの「ちくり」で著作者本人が黙認していいと思っていても、逮捕されちゃったりするわけです。同人誌文化やネット上のマッシュアップコンテンツの状況は大きく変わっちゃうでしょうね。
―― 著作権侵害を非親告罪化すべきではないかという議論も、法制問題小委員会などでありましたが。
今回の議論では「非親告罪化はしない」という方向になったみたいですが、なぜそういった議論が行われるかという背景には、著作権を「知財」の1つとして、特許権などと同視する動きがあるからなんですよね。著作権も知財の一部ではあるんですが、経済的論理だけで動く特許と同じように保護していいのかと思います。
特許権と著作権は全く違う話なのに、両方いっしょくたにして強化しようとしていることでゆがみが出ているということが、この問題の本質なんじゃないかと。著作権保護が行き過ぎれば、著作物の利用は阻害され、文化の発展にも影響を及ぼします。だから、ぜひいわゆる特許のような「知財」と「著作権」は切り分けて、まったく別の保護スキームを考えてもらいたいなと思ってます。
著作権とデジタルコンテンツの関係について、津田さんと小寺信良さんが業界のキーマン9人にインタビューした共著「CONTENT'S FUTURE」が、翔泳社から発売されている。小委員会委員の椎名和夫さんのインタビューも収録した。A5版312ページで2205円。
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