なぜ「ニコ動」は盛り上がり、「Second Life」は過疎化するのか(2/2 ページ)
「ニコニコ動画」「Twitter」が盛り上がり、Second Lifeが過疎化しているのはなぜか――勝敗の分かれ目は「時間軸」だという。「ニコニコ動画やTwitterには、100年に1度といえる程の革新があるが、Second Lifeは古い」
ニコニコ動画は、ユーザーが動画上に投稿したコメントをタイムラインに沿って蓄積。次回誰かが同じ動画を再生した際に、動画上の同じタイミングで、過去のコメントが再現される。再生時に見えているのは過去に付いたコメントの蓄積。にも関わらず、まるで今、リアルタイムでコメントが投稿され、みんなで対話しながら盛り上がっているような錯覚で楽しむことができる。
Second Lifeは「あとの祭り」、ニコニコ動画は「いつでも祭り」
ニコニコ動画は、投稿コメントによる盛り上がりが蓄積されていき、後から再生したユーザーも、過去のユーザーのコメントを追体験して一緒に盛り上がれるため、「『いつでも祭り』を引き寄せるシステム」といえる。これに対してSecond Lifeのような真性同期の仕組みは、盛り上がってもその場限り。祭り終了後にやって来た人は盛り上がりを体験できず、「あとの祭り」になってしまう。
時間軸で見るとSecond Lifeは現実社会と同じ。1人は1つの場所にしかいられず、体験はその場限りの一過性――という制約がある。だがニコニコ動画は、現実社会では不可能な「非同期だが同期」という新しい時間軸を作り出した。過去の盛り上がりといつでも対面でき、まったく異なるタイミングで動画を鑑賞した人と一緒に盛り上がることができるのだ。
「ちょっと大げさに言うと、ニコニコ動画は、ベンヤミンが70年前の論考『複製技術時代の芸術作品』で提示した構図そのものを崩してしまうとすら言える」
ベンヤミンの考察の当時はレコードや映画の黎明期。「芸術作品は、いま、この場所でしか見ることができないという『一回性』において『アウラ』(オーラ)を宿す。レコードや(映画)フィルムといった複製技術は、芸術作品の大量複製を可能にし、大衆的な娯楽産業を実現する一方で、アウラを喪失させてしまう」と記されている。
ニコニコ動画がこの前提を崩すとはどういうことだろうか。「ちょっとあおりっぽく言えば、ニコニコ動画はいま・この場で芸術作品(コンテンツ)を体験するという『体験』そのものを複製可能にする。20世紀は芸術作品という『対象』が複製可能になったが、21世紀は芸術を体験する条件『いま・ここ性』さえもが複製可能になった――と言えるかもしれない」
動画だけじゃない、擬似同期の可能性
ニコニコ動画のような疑似同期は、「始まり」と「終わり」があり、ある程度一定速度で流れるサービスなら、動画以外でも応用可能という。
例えばレースゲーム「マリオカート」の「ゴースト」機能。自分がプレイしたレース映像を保存しておき、過去の自分とレースできる――という機能で、まったく別のタイミングでプレイした過去の自分と、まるで同じ時間軸を共有しているかのような体験ができる。「こういった応用は現実社会でも可能だ。今後10年までに、疑似同期を使ったものが出てくるだろう」
メディア発展はリニア(直線的)には起きないと濱野さんは指摘する。インターネットの場合、文字の次は写真・音楽、動画、そして3Dと発展していく――と考えられがちだが、「技術はノンリニアに発展する。Second Lifeの3Dを見るとブログよりもすごそうに見えるが、人が求めているのは本当にそれなのだろうか。見た目上の進化にだまされず、見えないもの――時間に着目すれば、なぜSecond Lifeがバッシングされてニコニコ動画が受け入れられたか分かってくるだろう」。
今回の発表内容を含めた論考は、ブログ濱野智史の「情報環境研究ノート」にまとめられている。
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