創りたい、伝えたい――ネットと個人は止まらない:おもしろさは誰のものか(2/2 ページ)
テキストから写真、動画まで、誰でも簡単に、世界に公開できる時代が来た。誰もがメディアを持った今。その「おもしろさ」は、誰のものだろうか。
「権利者」の悲鳴
個人が気軽に作品を発表したり、コンテンツをコピーして公開する。従来の著作権法の枠組みや、著作権処理の仕組みは、急速に“当たり前”になったこの状況を想定していなかった。個人の創作と著作権の枠組みのあつれきは、ネット黎明期から続いている。
「紹介したい」「共有したい」という自然な気持ちで、他人が制作した画像や動画、音楽をコピーし、自分のサイトに貼り付ける。ほとんどの場合は、著作権を侵害している意識もなければ、コピーによってもうけようという意図もない。
「これは著作権侵害だ」――いわゆる「権利者」は、自社作品の無断コピーをネット上で見つけるたび、コピーした個人や企業に対して削除を依頼する。だが、無数の個人による「カジュアルコピー」は見つけ出すのも一苦労。管理には多大なコストがかかり、しらみつぶしにするのは不可能に近い。
それでも「権利者」は、個人によるネット上の違法流通と戦ってきた。パッケージ流通を守ろうとコピーコントロールCD(CCCD)を開発。WinMXユーザーが著作権法違反で、Winny開発者は著作権法違反ほう助の疑いで逮捕された。YouTubeに対しては「権利侵害コンテンツを根こそぎ削除せよ」と強く求め、着うた掲示板の隆盛を止めるために、違法コピーコンテンツをダウンロードする行為自体を違法にしようと動いている。
だがネットは止まらない。CCCDはユーザーからもアーティストからも反発を受け、消えていった。Winnyはいまだに使い続けられている。違法サイトからのダウンロード違法化は、ネットユーザーから強い反発を受けている。
止められないなら、利用するしかない――プロの創作者たちがネットを“発表の場”にいかす取り組みも始まっている。YouTubeやニコニコ動画に専用チャンネルを設置し、テレビではあまり露出できなかったマイナーな作品を公開する企業や、ユーザーがYouTube上に投稿した自社動画をそのまま残し、プロモーションにいかす企業も出てきた。
個人とプロのインフラとのあつれき
個人の優れた創作物が、プロの作品と同様の経済的価値を持つケースも出てきた。ただその際、既存のプロの経済インフラに作品を載せようとすると、あつれきが起きる。
「初音ミクJASRAC事件」――無名の作家が作り、みんなで盛り上げてきた人気曲が「プロ用」の著作権管理インフラである日本音楽著作権協会(JASRAC)に信託され、ネット上で大騒動になった(関連記事:JASRACモデルの限界を超えて――「初音ミク」という“創作の実験”)。
2月には、ニコニコ動画に投稿された同人作品について、権利者である個人が削除申請したが、すぐには権利を認めてもらえなかった――という事態も起きた。作品を発表する個人も、プロと同様「権利者」だ。
一部のプロが「大衆」に向けて作品を「供給」していた時代から、誰もが創り、公表し、共有できる時代。インターネットの登場が、これまでの構造を根本から覆している。
ネットはもう、止まらない。無数の個人の「創りたい」「伝えたい」の奔流は、止めることはできない。止めるべきではない。
いま、「おもしろさ」を作るのは「誰」か。あなたが感じた「おもしろさ」はいったい「誰のもの」だろうか。
問い直す時が来ている。
無劣化のデジタルコピーが容易になり、ネットを使って誰でも発信できる時代。企業も個人も創作・発表する中で、旧来の著作権の仕組みがひずみを起こし始めています。
創作のあり方はどう変わるのか。今、求められる著作権の仕組みとは――著作権の現場から考える連載「おもしろさは誰のものか」を、講談社のオンラインマガジン「MouRa」と共同で展開していきます。
次回はMouRaで、永井豪さんの制作プロダクション「ダイナミックプロ」へのインタビューを掲載します。1969年に設立された、コンテンツビジネス先駆者であるダイナミックプロは、ネットメディアをどう見、どう取り組もうとしているかを伝えます。3月19日(水)に「ザ・ビッグ・バチェラーズ・ニュース」上に掲載予定。
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