「出版界、このままでは崩壊する」――ダイナミックプロ、絶版ラノベ・SFを電子書籍化:おもしろさは誰のものか(2/2 ページ)
新刊本が量産される一方で、絶版本が増え続ける。そんな負のサイクルを止めたいと、絶版本を電子書籍として復活させる販売サイトを、永井豪のダイナミックプロが開設した。「今、実践しなくては、取り残されるか、次世代には消滅するしかない」
作家は低収入
作家は低収入で不安定な職業だという。「小説だけ書いて食べている人は、日本に5人もいないのではないか。小説家や漫画家には、JASRAC(日本音楽著作権協会)のように権利を集中管理して収益を上げている団体もない。『先生』などと呼ばれるが、作家は実質、出版社の下請けでしかない」と幸森さんは話す。
例えば、半年かけて小説を書き下ろし、700円の文庫で1万冊売るとする。印税率を10%で計算すると、印税収入は70万円。年2冊書くとして年収は140万円。純文学の作家なら、1〜3年に1冊というペースも珍しくない。「ある作家が税務署に確定申告に行ったら、『生活保護を受けたほうがいい』と言われた、なんて笑い話もある」
週刊誌にエッセイを連載するなど、小説以外から生計を立てているベストセラー作家も多いという。「エッセイを書ける人はいいが、書けない人もたくさんいる。そんな作家はアルバイトをしながら作り続けるしかない」
ダイナミックアークは、絶版本を“復活”させ、高い印税率で作家に還元することで、作家が過去の作品から収入を得る道を広げよう――という試みでもある。
サイトで人気が出れば、出版社と協力して絶版本を復刊させたり、打ち切りになっていたシリーズの続編を出版したりということも、できるかもしれない。独自の新人賞も企画しており、才能のある新人も発掘していきたいという。
このままでは取り残される
ダイナミックプロは、永井豪さんの個人事務所としてスタートした。だが「永井豪事務所」という名にしなかったのは、「多くの作家と協力し合おう」という永井さんの意志の現れ。これまで、さまざまな作家のマネージメントを手がけ、作家の権利を守るために奮闘してきた。
とはいえ、出版社や作家を問わずに絶版本をアーカイブ化するという事業は、作家の事務所の枠を超え、大きなリスクとコストを伴う。「作家の個人事務所がやるべきことでは本来ないと思うが、ほかに誰もやらないから」と幸森さんは言う。
「急速に変化していくITの世界についていくためには、混沌としている今のうちに研究と実践をしなくては、取り残されるか、次世代には消滅するかしかないと思う。われわれが正しいとは必ずしも思っていない。だがこれからの出版業界を探っていく上で、テストケースになれば、と考えている」
MouRa共同企画:おもしろさは誰のものか
無劣化のデジタルコピーが容易になり、ネットを使って誰でも発信できる時代。企業も個人も創作・発表する中で、旧来の著作権の仕組みがひずみを起こし始めています。
創作のあり方はどう変わるのか。今、求められる著作権の仕組みとは――著作権の現場から考える連載「おもしろさは誰のものか」を、講談社のオンラインマガジン「MouRa」の「ザ・ビッグバチェラーズニュース」と共同で展開していきます。
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