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ヒット漫画が変わった――完全無料の「ガンガンONLINE」で「常識外れの作品」試す

人気作家の漫画やライトノベルを無料公開する「ガンガンONLINE」は、漫画雑誌には掲載されないような「常識から外れた作品」を掲載し、時代に合ったヒット作品を生みたいという。

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ガンガンONLINE(C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved

 スクウェア・エニックス(スク・エニ)が昨年10月にスタートした「ガンガンONLINE」は、完全無料のWebマガジンだ。「魔法陣グルグル」(衛藤ヒロユキさん原作)の番外編や、「まほらば」作者小島あきらさんの新作など、ヒット作家の漫画も無料で読める。

 ライトノベルやイラストもあり、ほとんどがガンガンONLINE向けに作られたオリジナル作品。1人でも多くの人に読んでほしいと無料で公開し、作品を単行本化して販売して収益を得る計画だ。

 最近は作品をPC・携帯電話サイトでのみ公開するケースも増え、漫画雑誌に載らないヒット作も生まれるなど、人気作の傾向も変わりつつある。ガンガンONLINEは、少年誌の常識から外れた漫画を試す場にしたいという。

10年後、紙の雑誌で商売できるか分からない

 ガンガンONLINEに専業の編集部はなく、「ガンガンパワード」「ガンガンウイング」など漫画雑誌の編集部のスタッフが、紙の雑誌と並行して編集している。

 「漫画雑誌不況」と言われて既に久しい。単行本の売れ行きは堅調だが、雑誌の発行部数は減り続け、休刊する雑誌も増えている。一般的には「漫画雑誌が売れなくなってきている」と、ガンガンONLINEを担当する河野謙一さんは話す。

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スク・エニの出版事業は好調だ(2008年度第3四半期決算資料より)

 ただ同社の漫画雑誌は健闘しており、人気作品の動向によって増減はあるものの右肩下がりではないという。出版事業全体で見ても好調を維持。雑誌に掲載した漫画の単行本が売れてアニメ化し、アニメ人気の影響でまた単行本が売れるというサイクルがうまく回っているためで、2009年3月期の出版事業の売上高は過去最高となる見込みだ。

 だが将来は楽観できない。「10年後、紙の雑誌で商売できているか分からない」とガンガンONLINEを担当する窪田健一さんは言う。「もし紙がなくなったときに、対応できないのはよろしくない。スクエニの漫画誌はこれまで、作品を携帯に配信するといったこと以外で、積極的にWebに働きかけてこなかった。今のうちにWebの経験を積んでおきたい」(窪田さん)――ガンガンONLINEにはこんな狙いもある。

ヒカルの碁、きょうの猫村さん……人気漫画の傾向の変化とは

 「雑誌を読む習慣が減っている。雑誌を買い続けるのは今のライフスタイルに合わなくなっているのではないか」――河野さんは、漫画を取り巻く環境の変化を感じている。同社クロスメディア事業部の鈴木忍さんも「サイズの大きな雑誌を持ち運ぶより、携帯電話で時間をつぶす方が、身近なものになっている」と話す。

 人気作品の傾向も変わりつつあるという。河野さんは、「きょうの猫村さん」を例に挙げる。2003年にCATV会員向け「@NetHome」のコンテンツとして連載が始まって人気となり、その後単行本化された「雑誌に載らないヒット作」(河野さん)だ。

 猫村さんは、家政婦として働く猫が主人公で、鉛筆のような細い線で描かれたほのぼのした雰囲気の漫画。Webコミックだったからこそヒットしたのではないかと、河野さんはみている。「『少年誌』『少女誌』といったジャンルにとらわれない作品で、どの雑誌に載せるか判断するのが難しい。鉛筆画は雑誌に掲載すると見栄えしにくいという特徴もある」

 河野さんは「ちょっと前ならブームにならなさそうな作品が流行りだした」とも感じている。囲碁を題材にした「ヒカルの碁」がアニメ化されたり、山岳救助を題材にした「岳 みんなの山」が2008年度の小学館漫画賞に選ばれるなど、一般的とは言いがたい趣味や職業をテーマにした作品も、脚光を浴びている。

 「昔は受けるジャンルが決まっていたが……ネットの普及などによって趣味が細分化し、今はみんな、思いがけない小さな趣味や知らないものに興味を持つようだ」(河野さん)

「常識から外れた漫画を」

 ガンガンONLINEは「表現の変化に対応し、少年誌の常識から外れた漫画を試す場にしたい」と河野さんは意気込む。

 すでに「少年誌にはないタイプ」(河野さん)の作品を掲載し、人気が高まってきているという。例えば「おじいちゃん勇者」(坂本太郎さん作)は、魔王を倒すため冒険の旅に出る老人の勇者が主人公という設定。ニュースリリースによると「新ジャンル! おっさんやおじいちゃんに萌えるギャグ4コマ」だ。

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舞勇伝キタキタ(C)2008 Hiroyuki Eto/SQUARE ENIX

 「魔法陣グルグル」(衛藤ヒロユキさん原作)の番外編「舞勇伝キタキタ」も、「キタキタおやじ」というキャラを主人公に据える。坊主頭で上半身裸、腰みのを付けて踊る「変なキャラクター」(河野さん)が主人公の同作は、少年漫画の“王道”ではなさそうだ。

 「ガンガンONLINEには、『今までに雑誌で試したことない』『こういうものはどう思われるんだろう』というような作品を載せたい。Webマガジンは雑誌に比べ、反応がダイレクトに帰ってくる。読者の生の声をすばやく聞くことができ、勉強になる」(河野さん)

今夏には単行本化

 10月から1月までの累計ページビュー(PV)は700万で、「思っていたより良好」(鈴木さん)だ。今夏には、ガンガンONLINEに掲載した作品の単行本を初めて発売し、本格的に収益化に乗り出す。

 窪田さんは「雑誌に掲載した作品がアンケートはがきで好評でも、単行本は売れないという場合がある。PVを稼いでいても単行本が売れるかどうか不安」と漏らしつつも、「ガンガンONLINEを盛り上げて、アニメ化される作品を出したい。アニメ化されるということは、漫画家にとっても達成感がある」と意気込む。

 今後は、音楽や動画コンテンツ、Flashゲームの配信など、雑誌ではできないことにも取り組みたいという。作品のカラーページを増やしたり、漫画賞の受賞作品を読める場所としても活用する方針。雑誌で連載している作品を試し読みできる機能も追加したいと考えている。

 「ニコニコ動画」や「pixiv」などでは、ユーザーが熱心に自分の作品を公開している。「ネットユーザーには、表現したいんだという熱がある。われわれも負けないよう作っていく」(窪田さん)

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