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「Apple製品、好きだよ」 ハッカー・DVDヨンの素顔

DRM破りで有名なDVDヨン。攻撃的なハッカーというよりは、ガジェットとビジネスに目を輝かせる、穏やかな25歳だ。

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 短く切ったブロンドヘア、赤いスチールフレームの眼鏡、緑色のTシャツ。ジーンズのひざには、真っ黒なA4のThinkpad。やせた白人男性が、静かにキーを叩いている。

 渋谷のホテルの一室。一心にプログラミングするこの青年は、「DVDヨン」と呼ばれている。本名はヨン・ヨハンセン、25歳。ノルウェー出身の世界的に有名なハッカーで、DRM破りの代名詞ととらえられることもある。

 15歳の時、DVD-Videoのアクセスコントロール技術をクラックし、ノルウェー検察当局に著作権法違反で起訴された。その後もiTunesのDRM「FairPlay」を破ったり、iPhoneを回線契約なしで使えるようにしたり――Apple製品のDRM破りでも名をはせた。

 ソファに座って静かにプログラミングする彼は、攻撃的なハッカーには見えない。話しかけると人なつっこい笑顔を見せ、早口で丁寧に答えてくれる。話がとぎれるとノートPCに目を落とし、静かにキーボードを叩く。

 彼が初めてコンピュータに触ったのは、8歳か9歳のころ。最初のマシンはIBM 8086だった。「きっかけは、ほかの子たちと同じでゲーム。アドベンチャーゲームとかで遊んでた」。

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 12歳ごろから、基本書を読みながらプログラミングを始めた。最初に作った実用的なソフトは父のため。デジタルカメラからPCに画像を転送するソフトだ。

 「父のデジカメからPCに画像をコピーする時、ソフトがクラッシュして、そのたびに最初からやり直して面倒そうだった。だから、カメラからPCに画像をコピーできる簡単操作のアプリを作ってあげた。とても喜んでくれた」。うれしそうに話す。

 “DVDヨン”の名を世界に知らしめるきっかけとなった「DeCSS」を開発したのも、生活を便利にしたかったから。当時15歳の彼は、大好きな映画などのDVDを買い集め、300枚も持っていた。

 「DVDをPCで見たかった。でも僕はノルウェーに住んでいて、アメリカとノルウェーはDVDのリージョンコードが違う。アメリカで出た最新DVDを買ってもノルウェーでは見られない。けど、どうしても見たかったから」

 DVD-Videoのアクセスコントロール技術を回避するソフト「DeCSS」を作って公開。自分で購入したアメリカのDVDを、PCで見ていた。だがDeCSSを使えば、DVDのコピーも可能。米映画協会(MPAA)などがノルウェーの経済犯罪局に訴状を提出し、ノルウェー検察当局に起訴された。

いい勉強になった

 法廷での戦いと、メディアとの戦い。2方面作戦を強いられたと振り返る。「メディアは、僕のやったことが海賊行為と決め付け、事を荒立ててきた。本当はこうだったんだ、と報道についていちいち反論しなくてはならず、大変だった」

 だが彼の目的は海賊行為ではなく、自分で買ったDVDを、自分のPCで見たかっただけ。その主張は裁判所に認められ、無罪を勝ち取った。

 訴訟はつらかったのでは? こう尋ねると、「ストレスフルだったけど、つらいというほどではない。いい勉強になった」とさらりと言う。

 これをきっかけに、「DVDヨン」と呼ばれ始めた。奇妙なあだ名だが、「もう10年も呼ばれているからね。慣れたよ」。

Apple製品は大好き、でも……

 iTunesのDRM「FairPlay」をクラックしたり、iPhoneをAT&Tのネットワークなしでアクティベートできるようにしたり。Apple製品に関連するハッキングでも名をはせた。

 iPhoneとMacBookを使っていて、Apple製品は好きだという。「Apple製品はユーザーインタフェースが統一されていて、使いやすくて大好き。でも、他社より悪いところもある」

 「Appleはいろんな制約をかけたがる。iTunesで買った音楽にはDRMが付いてたし、iTunesで管理した音楽はiPodじゃないと聞けない。iPhoneはAT&Tのネットワークでないと使えない」

 「有料のコンテンツをDRMフリー化してコピーするような、海賊行為をしたいんじゃない。自分で買った物だから、自分で使える範囲があるはず。なのに使えない。そんなジレンマを解消したかった」

 07年、モニク・ファランゾスさんと共同で、doubleTwistを創業した。PCに保存した動画や音楽、画像などのファイルを、携帯電話などモバイル機器に転送・同期できるソフト「doubleTwist」を開発。09年2月に英語版をリリースした。

 「ハードもメディアもメディア管理ソフトも、いろんな種類があってとても複雑。1つのソフトですべてのメディアやハードを扱えるようにして、もっと簡単で使いやすくしたい」

 doubleTwistのデザインやユーザーインタフェースは、iTunesに似ている。「iTunesのUIが、使いやすくて好きだから。それに、ユーザーもiTunesに慣れているから」

「BDヨン」にはならない

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ファランゾスさんと

 DVDに代わり、Blu-ray Disc(BD)が普及し始めている。BDのDRMも解除して“BDヨン”になるつもりはないのだろうか。「BDはDVDほど普及していないからそんなに面白くない。今はネット動画の方が重要」

 では、ネット動画のDRMを破るつもりなのだろうか。「いや、市場はまだ小さいし、将来は動画もDRMフリーになっていくと思う。音楽もそうなるまで時間がかかったから、まだまだ時間がかかるだろうけど」

 iPhoneをクラックし、Apple非公認のアプリを動作させる「JailBreak」が流行しているが、そういった活動にも興味はないという。

 「プログラミングをするのは楽しいけど、時間がかかる。今は会社が成長しているし、プログラミングの時間は半分ぐらいにして、残り半分はビジネスに時間をかけてる。ビジネスパートナーと話して戦略を考えるのも楽しい」

 doubleTwist日本語版リリースを機に、3回目の来日を果たした。秋葉原に行くことを、何より楽しみにしている。音楽プレーヤーや携帯電話など、日本にしかないガジェットを見て回りたいという。

 一緒に来日したファランゾスさんによると、秋葉原で彼は、「おやつを買いに来た子どものように、目を輝かせる」そうだ。

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