公共性とビジネスの狭間で 国会図書館、書籍電子配信の取り組み(2/2 ページ)
Googleブック検索問題が波紋を広げる中、国会図書館が電子化した書籍を有料配信しようという構想が浮上している。実現には権利者との合意や予算の問題など、いくつものハードルが立ちはだかる。
「せっかく電子化したものを図書館内だけでしか利用できないのはもったいない」
国会図書館の本を電子配信し、どこからでも閲覧できるようにしよう――新聞報道でも取り上げられて話題になったこの構想は、電子化予算の確保や電子化データのテキスト化、ネット配信の許諾、権利者の協力など、さまざまな問題を解決した先に初めて現実味を帯びてくる1つの可能性だ。
「国会図書館の蔵書を、日本中の人に十分利用してもらうのは、図書館としての責務。せっかく電子化したものを、国会図書館内だけでしか利用できないのはもったいない」と長尾館長は話す。書籍の電子データをネット配信できれば、都内や京都府内にある国会図書館に足を運べない人でも、図書を簡便に借りられる仕組みも構築できると期待する。
長尾館長には、研究者として私的に検討してきた電子図書館のアイデアがある。(1)図書館が電子化した書籍データを、外部の非営利団体「電子出版物流通センター」(仮称)に無償で貸し出し、(2)同センターが「電子図書館」となり、書籍を借りたい個人向けに、有料で書籍をデータを一定期間配信(貸し出す)――というものだ。
国会図書館での書籍の貸し出しは無料だが、ネット貸し出しまでも無料にしてしまうと、出版社の利益を損ねる恐れがある。図書館に足を運ぶための交通費(数百円)程度のお金を徴収し、出版社や著作権者にフィードバックすることで、権利者の不利益にならない仕組みができないか。そんな発想が構想の原点だ。
これはあくまで長尾館長の私案で、可能性を議論するためのたたき台の1つ。具体的な議論はこれからだ。田中室長は「国会図書館への公共のアクセスを保障しながら、書籍の需要も促進する方法があるのではないか。議論の場が用意されれば、国会図書館としても積極的に参加したい」と話す。
「関係者が知恵を出し合い、作り上げていくことが重要」
Googleブック検索問題の浮上をきっかけに、著作権者や出版社、ネット企業関係者などから、書籍のネット配信についてさまざまな意見が出ている。議論を集約する場の構築に向け、経済産業省も動き出した。
「電子書籍は、楽曲や動画のネット配信より遅れている。Googleブック検索問題も含め、一度論点を整理する必要がある」(経済産業省の担当者)とし、2009年度補正予算で、海外の書籍ネット配信などについて民間調査会社に調査を委託。調査結果を元に、日本国内での電子書籍ビジネスの可能性について検討する場を設けようと計画していた。だがこの委託事業も、2009年度の補正予算の執行停止でいったん棚上げになっている。
予算や権利問題などさまざまなハードルはあるものの、国会図書館は今後も、蔵書を全国できるだけ多くの人から利用してもらえる仕組み作りに注力していく。「著作権者と協議して、いい方法を見つけたい。関係者が知恵を出し合い、作り上げていくことが重要」と長尾館長は話している。
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