「変化を自分で作りたい」 村上龍氏が出版社と組まずに電子書籍を出す理由(2/2 ページ)
電子書籍を出版・販売する新会社を、作家の村上龍さんとIT企業が組んで設立した。制作コストを公表し、利益配分を透明化することで、電子書籍ビジネスの公平なモデルを示したいという。
よしもとさんはG2010から出す電子書籍向けに、編集者なしでエッセイを書き下ろした。「普段は編集者の好みを見ながら書いているが、今回はそういった制約がなく気楽だった。自分で校正できる程度の字数にしようと考えた」という。紙の本だと「思う存分イラストを入れると高くなるが、電子書籍はそうではない」という自由さも
よしもとばななさんは、歌うクジラを読むためにiPad版を買いに走り、夜中にダウンロードして読みふけったという。「電子書籍は読者も書き手も自分の手元に引き寄せる。小説が、もう1度パーソナルに近づいたような錯覚があり、自分でもやってみたいと思った」
電子書籍をめぐる混乱の中で、「作家が一番置き去りにされている感覚を持っている」とも指摘。電子書籍販売にチャレンジする中で得た情報を、「TwitterやWebサイトなどで、作家に向けて公開していきたい」という。
ぎっくり腰が悪化して会見に参加できなかったという寂聴さんはビデオメッセージで、「断っても嫌がっても、世の中は移り変わる。電子書籍は、印刷術が始まって以来の革命だと思う。生きているうちに久しぶりの大革命に出会ったのは喜び。冥土の土産に是非参加したいと思った」と話した。
「電子書籍は関与するほど興奮する、わくわくするもの」
村上さんは、電子書籍は作家にとってポジティブなものだと繰り返し、時代の変化を体現していきたいと意気込む。
「作家は『誰かに読んでもらいたい、伝えたいと思いながら書く。10年前、電子メールが出たとき、多くの人に直接作品を届けられると思い、それはとてもいい気分だった。電子書籍は、読者に届けるツールが増えたということ」
「電子書籍をめぐる論議は、どこかつぶれるとか、売り上げをどう分けるか、ネガティブな話が多いような気がする。だが『歌うクジラ』をやっていたときは本当に興奮して充実していた。電子書籍は関与するほど興奮する、わくわくするもの」
「閉塞感が日本全体を覆っていると思うが、電子書籍はネガティブな要素ではなく、作家にとってもドキドキするものになり得ると思っている。変化は外からやってくるものと考えがちだが、変化は自分たちで作り出せるものかもしれない。電子書籍で自分で何か作り出して変化に関与する。何が起こるんだろうではなく、何が自分で起こせるだろうという感じてやっていく」
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