「作者がもうからないと未来につながらない」:漫画家・赤松健×小説家・桜坂洋 電子書籍対談(後編)
「作者がもうからないと未来につながらない」という赤松健さんの考え方は「珍しがられる」という。電子出版の現在と未来を作家同士で語る対談連載、最終回。
作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋
iPhone/iPad向け電子書籍「AiRtwo」(エアツー)に掲載されている、漫画家・赤松健さんと小説家・桜坂洋さんの対談「作家は一次産業という本来の姿に立ち返る 赤松健×桜坂洋」の一部を、特別編集版として公開します。AiRtwoのダウンロードはこちら。
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創作にとって幸福な循環を
桜坂 そうなると当然、背景だけじゃなくてキャラクターもモデリングでつくって、二次創作に提供する人も出てきますね。
赤松 僕の夢想していた世界を具体化させたものが「コミPO!」(絵が描けなくても用意されたデータをつかってマンガを創作できるソフトウェア)ですよ。ああ、先にやられちゃった、という感覚があります。
あのソフトのプロデューサーでマンガ家の田中圭一さんは、田中さんのセルシス在籍時代に何度かお会いしたんですけど。
桜坂 アレ、すごいですよね。もともと二次創作の同人誌というのは、マンガや小説を読んでやむにやまれぬ理由で内側から湧き出してしまった欲望の具現化なわけで、そうした具現化を手助けするツールがそばにあったら、なにか新しいタイプの創作が出てくるかもしれません。
赤松 「コミPO!」シリーズで、ものすごくパワーのあるキャラづけをするサークルなどが登場して、その後の標準になっていく、ということが起こるといいですよね。
あとは、たとえば『ストリートファイターII』のキャラクター、リュウやケンの同人誌で、公式設定に妄想を加えて練り上げられたキャラ造形があると、すごくインタラクティブな感じでわくわくするんです。そうした作品はつくっていて楽しいはずですよ。しかもそれでもうかるのなら、なおさらです。創作としてはいい循環ですよ。
政府や図書館の人と話すと、彼らは作者の利益についてほとんど関心を持っていないので驚かされるんですよ。彼らは作品をどのように分類し保存するか、ということにしか興味がない。
だけど、僕の観点は「作者がもうからないと未来にはつながらないよ」ってところにある。これって実は珍しい考え方らしいんだけど。「……へぇ〜」とか言われますからね(笑)。
世間的には、作者は霞でも食っていれば生きていけると思われているのかもしれないですね。
もちろん「自分のキャラがひどい目にあうのはイヤだ」と考えている人もいらっしゃいます。しかし僕は、自分も同人誌出身ですから、僕のキャラをつかわれても全然大丈夫なんです。特に、うまい人ならばぜひ。と、こんなことをいうとファンの方に怒られてしまいますが。
桜坂 そうなんですか。私の場合は逆で、まだ描き慣れていない、14歳ぐらいの人が描いた初々しいヤバさにグッときますけど(笑)。
赤松 広告モデルは、もちろん小説でもできるんですよ。小説のほうがむしろ広告もはさみやすいですし、中身検索もできるから、おもしろいですよ。
PDFで配布するのであれば声優さんの声を入れることもできるので、名場面だけ声が出るようにするとか。それが声優さんの新しいお仕事になるかもしれないです。こんな風に考えていくと、どんどん夢が広がるんですよ。
僕自身も好きな声優さんがいたら、DVDを全巻そろえておいて、名場面だけ何度も聞いたりしますからね(笑)。大変なのかもしれないですが、とにかく僕がやってみよう。と思っているところですね。
桜坂 赤松さんは、これからは、どんなことが起きると思われますか。
赤松 2009年までは、誰も電子出版の話題なんて話さなかった。それが2010年になって、うわっと一斉に語られだした。急進的だったと感じます。2011年にこの流れがさらに加速度的に進むとすると、出版社は今ですらマズい状態なので、なんらかの革新的なことが起こるかもしれません。具体的には、なにかを出版社が諦めるとか。
桜坂 なにを諦めるか、でしょうね(笑)。
赤松健
1968年生まれ。漫画家。1993年「少年マガジン」誌にてデビュー。翌1994年、『A・Iが止まらない!』にて初の連載を開始。1998年には『ラブひな』をスタートさせ、この作品は第25回講談社漫画賞を受賞するヒットとなった。現在は『魔法先生ネギま!』を連載し、この作品もアニメーション、キャラクターグッズなどさまざまなメディアを巻き込む大ヒット作となっている。2010年11月より絶版マンガ作品を広告入りで無料で配信する会社、Jコミを立ち上げ、社長に就任する。
桜坂洋
1970年東京都生まれ。小説家。2003年、集英社スーパーダッシュ文庫『よくわかる現代魔法』にてデビュー。その後『スラムオンライン』(ハヤカワ文庫、2005年)などの作品を発表。2004年に発表した短篇『さいたまチェーンソー少女』では第16回SFマガジン読者賞を受賞する。ライトノベル界に熱いファンを持ち、かつ、いわゆる文芸領域からも高く評価される書き手。同人活動の造詣が深く、また自身もマンガやゲームなどのキャラクター表現のファンとしても知られる。
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