著者とアスレチックスGMが語った「マネーボール」への情熱(2/2 ページ)
ベースボールの変革者として後世に名を残したアスレチックスのビリー・ビーンGM。「マネーボール」の著者であるマイケル・ルイス氏とともに、スポーツにおけるデータ解析の可能性を語った。
野球にはびこるバイアスを排除
得てして、歴史が長く保守的な体質の組織は、新しい考え方や行動に抵抗するものだ。特に、野球に限らずスポーツは“経験と勘”が尊重される世界であり、これを否定すれば大反発は必至だった。セイバーメトリクスを持ち込んだときのアスレチックスも同様で、当初はビーン氏とアシスタントの2人で孤軍奮闘していた。
「直感による采配は間違いなく非合理だった。しかし、それを否定して別の手法を提示しても結果が出なければ選手やフロントは耳を傾けてくれない。いかに統計データを示して選手に納得してもらうかが難しかった」と、ビーン氏は振り返る。
挫折はなかったのか。ビーン氏は「数字やデータを信用すれば、必ず結果が出ると信じていた。それよりもデータの統計解析に取り組まないことの方がリスクだった。勝つためには新たな行動が不可欠だったのだ」と意気込む。
ルイス氏も続く。「過去データを分析して選手の貢献度を数値化してみると、今までいかにバイアスのかかった見方をしており、誤った評価を選手に与えていたかが一目瞭然だった。わずかなサンプルで結論付け、出塁率など見えにくいものを過小評価していたのだ」。バイアスを排除し、データ分析から真実を導き出すことが重要で、リーダーに求められるのはそうした考え方だという。まさにそれを体現したのがビーン氏だったというわけだ。
統計学の専門家が集結
アスレチックスの成功、そしてマネーボールの出版によって、野球におけるデータ分析の重要性が一気に高まった。現在ではあらゆるチームがセイバーメトリクスを取り入れており、データをフル活用して意思決定を行うGMや監督は少なくないという。
チームスタッフの顔ぶれも一変した。現在、ビーン氏を支えるアシスタントはハーバード大学出身で、「ウォール街で仕事をするような人物」(ビーン氏)だという。これはアスレチックスに限らず、多くのチームが統計解析のプロフェッショナルを採用している。「資金力があり、優秀な人材も多いボストン・レッドソックスはこの分野で先端を走っているし、ニューヨーク・ヤンキースは21人もの統計学者を抱え込んでいる」と、ビーン氏は現状を説明する。
こうした動きはメジャーリーグにとどまらず、海を飛び越え、日本のプロ野球界でも見られることとなった。北海道日本ハムファイターズや千葉ロッテマリーンズをはじめ、多くのチームが球団運営にデータ分析を取り込んでいる。
「競争優位を得るためには、もはや統計解析が不可欠になった。優秀な人材が野球界にどんどん集まり、データ分析に関する部門は拡大を続けている」(ルイス氏)
もちろん、野球においてデータ分析がすべてであるというわけではない。スポーツにおいて統計データを裏切る結果が出ることは大いにある。特にプレーオフのような短期戦では運が左右し、必ずしもベストなチームが勝つとは限らない。しかしながら、結果とプロセスを区別して考えることが重要であり、勝率を最大限に高めるためのプロセスを軽視してはならないという。
「野球における統計解析技術は日進月歩で、精度は向上している。今後さらに情報活用に注目が集まり、データ分析によってチーム力の差がますます広がることは間違いないだろう」(ビーン氏)
※本記事は、10月26日に米国・ネバダ州ラスベガスで行われた「IBM Information On Demand 2011」の講演を基に作成。
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