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「書店が果たさねばならない役割がある」――ジュンク堂新宿店“最後の本気”

「本音を言えば、この本が売りたかった!!」――3月末に閉店したジュンク堂書店 新宿店。最後のブックフェアがネットで話題を集めた。フェアの反響に驚いた店長は「リアル書店が果たさなねばならない役割がある」と思いを新たにしている。

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 「本音を言えば、この本が売りたかった!!」――こんなタイトルのブックフェアが3月、「ジュンク堂書店 新宿店」(東京・新宿三丁目)で開かれた。書店員が本当にお気に入りの本を持ち寄り、POPに本への熱い思いをつづったフェアの様子は、「書店員の最後の本気」とネットで話題を集め、たくさんの客が訪れた。

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 それは確かに、「最後の」本気だった。ジュンク堂書店 新宿店は3月31日、7年の歴史に幕を閉じた。テナントとして入居していた「新宿三越アルコット」の営業終了に伴う閉店。最終日には多くの人が訪れ、店内の最後の様子をTwitterにアップする人もいた

 同店の毛利聡店長は、閉店フェアがネットで盛り上がったことに驚いたという。予想外の反響を受け、「リアル書店が果たさなねばならない役割がある」と思いを新たにしている。

「お仕着せではないブックフェアを」

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図書館のような雰囲気の店内。いすに座って本をじっくり吟味できた

 同店は、新宿三越アルコットの6〜8階にあり、売り場面積は約1600坪(約5300平方メートル)。背の高い木製の本棚が整然と並び、いすに座ってゆっくり本を吟味できる。都会の真ん中にありながら図書館のような落ち着いた雰囲気と、マニアックな専門書まで充実した品ぞろえに、読書家のファンも多かった。

 閉店まで1カ月を切った3月初旬ごろから、20近いブックフェアを開催。ほとんどが、書店員が自発的に提案したフェアだったという。

 冒頭の「本音を言えば、この本が売りたかった!!」は、芸術書担当者によるフェアだ。写真やデザイン、映画、演劇など約100冊をディスプレイし、すべての本に手書きのPOPを付け、イラストをあしらった手作りの装飾で台を盛り上げていた。


画像 「本音を言えば、この本が売りたかった!!」フェア台より。「もはや、しがらみも、たてまえもいらない。売りたい本がありだけです。7年間、有難うございました」
画像 熱い思いと遊び心が込もったPOP

 「本音を言えば、この本が売りたかった!!」というタイトルには、「お仕着せではない、わたしたち書店員が考えたフェア」との思いを込めたという。

 「ジュンク堂新宿店では、常時10以上のフェアをやっていました。担当者の思い入れで作ったフェアもあれば、出版社から頼まれるものもありますが、かなり好き勝手にフェアをしてきています。今回は、閉店というタイミングもあり、インパクトのあるネーミングを選びました」。毛利店長は、意図をこう説明する。

 ほかにも、社会科学担当者が選んだ「さようなら新宿〜社会科学担当者が本当に売りたかった本〜」フェア、思想科学担当者による「わたしたち、本にはいつも片想い?――書物に対する欲望と快楽、その現代的考察」フェア、本や書店に関する本を集めた「ホント本屋が好き!!」フェアなど、各売り場の担当者が、思い思いのフェアを開催。書店員の熱い思いが、店内を包んでいた。

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「さようなら新宿〜社会科学担当者が本当に売りたかった本〜」フェア
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「書店はメディアだ」――社会科学担当者が本当に売りたかった本フェア台より
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「ホント本屋が好き!!」フェア
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「わたしたち、本にはいつも片想い?ー書物に対する欲望と快楽、その現代的考察」フェア
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思想科学のフェアには、まるで書評のような長文POPもあった。『フリー』(クリス・アンダーソン)のPOPは、「タダを競い合う現代のビジネス。理想型の“贈与”とはいかにかけ離れたものであるか、現代を批判的に読むにはうってつけの本ではないでしょうか?」と、皮肉が効いた内容だ

 著者にフォーカスしたフェアもあった。著者のサインや手書きPOPを飾った「たくさんの著者さんにご来店いただきました」フェア、POPに著者への“ラブレター”をつづった「ジュンク堂書店新宿店児童書売場を共に盛り上げてくれた作家たち」など。フェア台から、著者への愛がにじみでていた。

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「ジュンク堂書店新宿店児童書売場を共に盛り上げてくれた作家たち」フェア
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POPには作家への“ラブレター”が

ネットで話題は「予想外」 「リアル書店が果たさなねばならない役割がある」

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NAVERまとめ:閉店する「ジュンク堂」書店員の最後の本気

 書店員の情熱は客にも伝わり、フェアの様子をTwitterなどソーシャルメディアで紹介する人も現れた。3月8日、ユーザー投稿型のまとめサイト「NAVERまとめ」に、閉店する「ジュンク堂」書店員の最後の本気という“まとめ”が登場。フェアに訪れた人のTwitterの声や、フェアタイトル、フェア台の写真が1ページにまとめられた。

 まとめはTwitterやFacebookで次々にシェアされ、口コミで話題が急拡大。同まとめの4月2日までのツイート数は6000以上、Facebookのシェア数は2500以上、ページビュー(PV)は60万近くに上る。


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売り切れた本のPOPの一部

 「まったく予想しなかったことで、驚きました。紹介していただいたことがとんでもない宣伝になり、ドッと反響がありました」と、毛利店長はネットでの反響について振り返る。まとめが掲載された週の土日には、フェア台に人だかりができ、売り上げも2〜3割伸びたという。「本がかなり売り切れました。仕入れていると閉店に間に合わないので、売り切れ御免の状態で、申し訳ありませんでした」

 予想外の反響を見て毛利店長は、「リアル書店が果たさなねばならない役割がある」と思いを新たにしたという。「『こんな本があります』という提案型の売り場作りや、実際に本を見て選んでもらえるのは、ネットではない、リアルの書店だからこそ。それを求めている方もいらっしゃるんだなとつくづく感じ、その思いをジュンク堂の他の店舗にも共有しました」

「また新宿で会える日を」

 3月31日。同店には閉店を惜しむ多くの客が詰めかけ、閉店間際はレジに大行列ができていたという。来店客の一部は、最終日の様子をTwitterにシェア。在庫整理が進んだガラガラの棚や、レジに並ぶ多くの客、閉店後、従業員が客を送り出す様子の写真などが投稿されている


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フェア台のひときわ目立つ場所にディスプレイされていた『「本屋」は死なない』(石橋毅史)

 昨年5月、三越アルコットがビックカメラに転換するというニュースが伝えれられて以降、「当店の今後を聞いてくださるお客様は多く、残ってくださいという声もいただいていました」と毛利店長は話す。

 同じ場所に同店を残すべくビックカメラと交渉したが、条件面で折り合わなかったという。「残ってほしいという声を叶えられず申し訳ありません。閉店はわたしも従業員も残念だし、お客様には申し訳ないという気持ちでいっぱいです」

 ジュンク堂は、新宿での展開を諦めたわけではない。

 閉店のポスターには、こう書かれている。

 「ジュンク堂書店新宿店は、今月末をもって、残念ながら閉店いたします。永らくお世話になりました。深く感謝申し上げます。またいつの日か新宿の地でお会いできるまで、しばしのお別れです。有り難うございました ジュンク堂書店新宿店一同」

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