「中二」という病(やまい)と音楽産業:新連載・部屋とディスプレイとわたし(3/3 ページ)
若者が盗んだバイクで走り出したり、支配から卒業していた時代は遠くに過ぎ去った。いま音楽産業は「中二病」を取り込めていないのではないか。作家・堀田純司さんによる新連載の第1回目。
ガンダムからエヴァへ
こうした中二病の症状の変化は、よく言われる「大きな物語」の終焉が原因で、大人のつくったとされる社会秩序が反発するほど強固なものではなくなったためなのかもしれません。また、グローバル化が進み、ローカルな伝統や規範が希薄になって、あまり抑圧を感じさせなくなってしまったためもあるでしょう。
先に例に出したロボットアニメでも、1995年放映の「新世紀エヴァンゲリオン」では、ロボットが革命の武器というよりは、もはや嫌がる少年を無理やり搭乗させ、いやが応でも社会に直面させる装置というように変化していました(そしてその巨人は、場合によっては少年をくるみこむ、暖かいモラトリアムの繭ともなりました)。ちなみにこの作品以降、社会現象とまでなるロボットアニメは現れてはいません。
しばらく前に「大人になった自分が思春期のころにハマッたものを回顧する」という懐かし産業が、注目を集めたことがありました。現代ではそれを通り越し、思春期の心のまま大人になった人向け産業に重心が変わり始めているようです。私のまわりにも、部署の偉い人が異動になっただけで「王位継承」などと、訳のわからないことをいう大人がいます。いや人ごとではありません。
私自身は、ロックですらもなく「遅れてきたATG世代」みたいな思春期で、当時の「芸術家の人生は緩慢な自殺なのだよ」といった発言は、思い出すだけで恥辱死していまいそうになります。今ここにタイムマシンがあれば、乗って出かけて当時の自分を抹殺することに躊躇はないでしょう。
そんな私ですが、昨年、さえないサラリーマンが中学生に転生し、美少女哲学者の講義を受けるなどという小説を書いたせいか、どうも中二脳に毒されてしまったようです。つい先日もテレビで「サルコジ氏を破ってオランド氏が当選」というニュースを見ただけで「そうか……。世界はヤツを選択したか」などと思ってしまいました。
ただ、こうした症状は世界的にアウトブレイクしており、海外作品でも「狼族ライカンとヴァンパイアがどうたらこうたら」とやっているのを見ると「あちらの中二も変わらないなあ」と感じます。よくも悪くも中二病とつきあうことは、現代人にとって大切なテーマになりそうです。
この原稿が「どんな敵も俺を退屈させてばかりだ。おまえは俺を満足させてくれるのか」と思っているあなたの、刹那の興奮となることができたら幸いです。
堀田純司 1969年大阪府生まれ、作家。著書に「僕とツンデレとハイデガー」「人とロボットの秘密」などがある。書き手が直接読者に届ける電子書籍「AiR」(エア)では編集係を担当。講談社とキングレコードが刊行する電子雑誌「BOX-AiR」の新人賞審査員も務める。
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