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iPhoneアプリで食べていく――「ぐんまのやぼう」ができるまで(3/3 ページ)

全国を群馬県にしてしまう人気ゲーム「ぐんまのやぼう」を開発したのは、アプリ開発だけで生計を立てている28歳の自称「ネオニート」。これまで100本以上のアプリを作ってきたが、「できれば働きたくない」「ひっそりしたい」と話す。

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一発ネタのつもりだった「ぐんまのやぼう」

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47都道府県アプリの企画者・なちこさんのブログより

 「ぐんまのやぼう」が誕生したのは、知人が立ち上げた、47都道府県のアプリを作ろうという企画がきっかけだ。群馬県出身のRucKyGAMESさんは、群馬アプリの開発に名乗りを上げた。

 「でも群馬県は、これといった名産がなくて。例えば静岡ならお茶のアプリを出せばいいんでしょうが……」。考えあぐねたあげく、県の名を世に知らしめるアプリを考案。県内の市町村の形を当てたり、人口が多い順に市町村を並べるミニゲーム集(アプリ内の「ひまつぶし」で遊べる内容)を開発したが、「あまりに地味すぎました」。

 追加要素を考えていたところ、たまたま日本地図の素材を発見。「ほかの県が群馬県になったら面白いんじゃないか」と考え、群馬県の名産・キャベツ、ねぎ、こんにゃくを収穫して「G」(GUNMA)を貯め、日本中を群馬県化していく今の形に落ち着いた。「本当は、畑を耕す機能とか考えてたんですが、作るのがめんどくさいし、そんなに面白くないだろう、と。“放置系”アプリならすぐ作れたので」

 群馬県出身者のみで作るということにこだわり、グラフィックスもサウンドも、自分1人で作った。作物を収穫するとき再生される「グンマー」という効果音は自分の声を加工して制作。「群馬県人に知り合いがいなくて、頼める人がいなかったので……。実家の両親に頼もうかと思ったのですが、面倒だったので」

 5月初旬のリリース直後からWebで話題になり、ネットのニュースメディアで続々と取り上げられたほか、中川翔子さんがブログで紹介したり、群馬出身の布袋寅泰さんがダウンロードしたとツイートするなど大きな反響があった。「完全に一発ネタのつもりで、出オチでいいと思ってたので反響にびっくりしました。ここまですごくなるなら、もっとちゃんとやればよかった……」


画像 ぐんまのやぼう。画面上のねぎ、こんにゃく、キャベツをタッチで収穫して「G」(GUNMA)をため、ほかの都道府県を群馬県に変えていく
画像 「ひまつぶし」のミニゲームの1つ。群馬県内の市町村と同じ形を選んでタッチする
画像 7月のアップデートで、群馬県の公式キャラ「ぐんまちゃん」が、県内の駅をめぐるすごろく機能が追加された

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にほんのあらそい。ゲームシステムはぐんまのやぼうとほぼ同じだ

 その後も次々に機能を追加していった。日本の制圧が終わると世界を、そして太陽系まで制圧できるようにしたほか、話題の「コンプガチャ」に触発され、群馬県の市町村カードを集めて“平成の大合併”を再現できる「合併ガチャ」を追加。群馬県の公式キャラクター「ぐんまちゃん」が県内の駅をめぐるすごろく機能も追加した。「1つのアプリでこんなに頑張ったのは初めてです」

 「群馬県以外のバージョンも作ってほしい」という声を受け、任意の県で日本中を制圧できる「にほんのあらそい」も制作し、人気を博した。ダウンロード数は、ぐんまのやぼうが60万、にほんのあらそいが40万に達したが、単体アプリで100万を超えた「i大富豪LITE」などに比べるとまだ少なく、App Storeのランキングでも「10位ぐらいが最高だった」という。「話題にはなっても、みんな意外と落としてくれない。ランキングで1位や2位に入るのって、難しいなと思ってます」

群馬県観光特使に 「何やればいいんだろう」

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ぐんまのやぼうiPhoneケース入りiPhoneを手にするRucKyGAMESさん

 「特使をやりませんか」――7月初旬、ぐんまのやぼうヒットを知った群馬県庁観光課に呼ばれ、観光特使に誘われた。「アプリを作って特使になったら面白い」と軽い気持ちで引き受けたが、「何やればいいんだろう」とちょっと不安に思っている。

 ぐんまのやぼうのイラストをモチーフにしたiPhoneケースも発売された。メーカーには、「売れなくても僕が怒られたりしないなら、どうぞ」と消極的にゴーサインを出したという。自らのiPhoneに、ぐんまのやぼうケースを装着しているが、「前使っていたケースが壊れたころ届いたので」使っているだけ。「群馬県の形してるだけですからね……」

 “ぐんまのやぼうの人”と思われがちなことに、最近は少し困惑している。「あんまり群馬群馬思われたくなくて。本当は、ほかのアプリも継続して作っていきたいんですが、何かしら群馬のアプリをもう1個ぐらい作らなきゃいけない雰囲気があって……」

「引退って、どうやったらできるんだろう」

 仕事場は自宅。通勤の必要もなく、仕事時間は自由に選べるはずだが、毎日忙しく、会社員時代よりもゲームをする時間が取れない。会社員なら休日はたっぷり休めるが、今は「自分が止まったら終わり」。休むとその分、損している感じがするという。アプリがヒットすると、広告やグッズ販売などの問い合わせも増えるため、その分多忙になってしまう。

 「もう少しのんびりできると思ってたのですが、全然できません。仕事しないと生活ができなくなるという危機感で、追い詰められているので。やらなきゃいけないけどやりたくない、という現実逃避以外では休めない。現実逃避の時間もけっこう長いんですが……」

 受託開発で稼ぐフリープログラマーも多いが、RucKyGAMESさんは、アプリ制作一本で生きていく道を選んだ。「頑張りたくなくて……。あんまりお仕事したくなかったんです。お仕事くださいって言うのも大変だし。アプリ制作は、作りたいものを自分で決められるし、誰かにダメ出しされることもない。ダメ出しは落ち込みます。App Storeのレビューも、ひどいからんまり見てない。怖いので」

 会社員時代より月収は増えたが、「自販機のジュースを買うのにもためらう」という生活レベルは変わっていない。それでも不安は尽きないという。「税金とかけっこう大きいし、銀行がつぶれたりして、無一文になったらヤバイ……。早くサラリーマンの生涯年収を貯めて引退して、ゲームは悪ふざけで暇なときに作るぐらいにしたいですね。引退って、どうやったらできるんだろう。働きたくないです、可能なら」

法人化へ 「代表取締役という響きがほしいから」

 RucKyGAMESは近く法人化する予定だ。デザイナーへの支払いがしやすくなるといった実務面に加え、「よくわかんないアプリを出しているRucKyGAMESが会社になったというシュールさが面白いし、代表取締役という響きがほしい」と思ったから。法人化第1弾アプリで「変なことをやりたい」と考えている。

 起業といっても、「もっと仕事がほしい」とか「上場したい」といった野望はなく、有名にもなりたくもないという。「有名になったら大変じゃないですか。アプリはこれぐらい売れなきゃとか、有名になったなりのハードルがある。そういうハードルをできるだけなくして、コケて当たり前でいたい。ひっそりしたいです」

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