電子書籍で世界がもっと楽しくなる方法を考えよう 「売れる・売れない」を超える「第三極」のために:部屋とディスプレイとわたし(5/5 ページ)
「売れる・売れないの二極化」という紙の書籍の実情は電子書籍にも当てはまる。だがせっかくの変動期、「書きたかった」「読みたかった」をつなぐ仕組みで電子書籍から新しい「第三極」は生まれないか。作家、堀田純司さんの論。
ということを考えて何度か提案したりもしていたのですが、小説家の高橋文樹さんが個人で本当に実践していらっしゃいました。(「僕は君たちに金を配りたい」)すごい! やはり書き手のほうが時代の変化に対して危機感が強いのだと感じますが、プロデュース、セールスサイドもいろいろな試みをやってみてはいかがでしょう。
正直、現在の日本の商業電子書籍には、独自のヴィジョンを見据えているというよりは「とにかく電子になればいいことありそう」とか(最近では悲観論のほうが主流かもしれませんが)、あるいは「出版社、取次、書店という紙の秩序を電子でも再現する。それがヴィジョン」という印象もあるのではないでしょうか。私は、今までの営みはとても大切にするべきであり、継承するべきものはぜひ継承していかなければならないと常々考えているのですが、しかし同時に「せっかくの変動期なんだから新しい秩序が出てこないと面白くないのでは」とも正直、感じます。
かつて昔々は、よほど意識の高い編集者でないと、コミケの会場に足を運んで才能を探したりはしなかったものでした。しかし後にこの分野から大ヒットになるような作品も現れ、商業も熱い視線を向けるようになりました。かつてのケータイ小説の分野もそうでした。電子書籍の世界も、そこに目を向けるととんでもない才能や試みがいっぱいある。そんな分野になるといいのですが。
電子書籍は、物理実体がない。だからいつまでも店頭にあるのでロングテールで動き続けると思われていましたが、実際のところ現状は、ほとんどのタイトルが半年でピタっと動きを止めてしまう。しかし私たちがつくっている「AiR(エア)」は2010年に刊行した第1号がいまだに売れているという、電子では極めて珍しい作品となっています。二極化する世界の中で「自分の読みたいものがここにあった」と感じていただいているとしたら、心からありがたく思います。
堀田純司 1969年大阪府生まれ、作家。出版社を介さずに、書き手が直接読者に届ける電子書籍「AiR」(エア)では編集係を担当。講談社とキングレコードが刊行する電子雑誌「BOX-AiR」では、新人賞審査員も務める。著書に「僕とツンデレとハイデガー」「人とロボットの秘密」などがある。近刊は「オッサンフォー」。Twitter「@h_taj」
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