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「VOCALOIDの父」、VOCALOIDプロジェクト離れ新たなチャレンジへ 「VOCALOIDの未来は明るい」

「VOCALOIDの父」として知られるヤマハの剣持秀紀さんが、同社内で新商品・新規事業にチャレンジする部署に異動し、VOCALOIDプロジェクトから離れたことを明らかに。「VOCALOIDの未来は明るい」とVOCALOIDの発展を後任に託している。

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 「VOCALOIDの父」として知られるヤマハの剣持秀紀さんが、ヤマハ社内の新商品・新規事業に向かってのチャレンジを後押しする部署である事業開発部ニューバリュー推進室室長に2015年1月1日付けで就任。VOCALOIDプロジェクトから離れることをTwitter上で公表した

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剣持さん

 VOCALOIDプロジェクトリーダー後任は、剣持さんによれば「歌声に関して知識や経験も豊富で、深い洞察力を持つ方」という。「まだまだやり残したこともたくさんあります。それは新リーダーによって再定義され、新しい価値をもって皆様に届けられることになるでしょう。VOCALOIDの未来は明るいと信じております」と剣持さん。

 剣持さんは1993年にヤマハに入社以来、研究開発に関わり、2000年にVOCALOIDプロジェクトを立ち上げ、2003年に最初のバージョンを製品化。2007年にはVOCALOID2の初音ミクが大ヒットして現在に至る大きな潮流を作り、2011年にVOCALOID3、そして2014年11月にはyamaha+推進室VOCALOIDプロジェクトリーダーとして、VOCALOID4の立ち上げを成功させた。

 剣持さんはツイートでこう振り返る。「2000年にVOCALOIDの開発を始めて、苦しいことや楽しいこと、いろいろなことがありました。中でも2007年後半の出来事は、私は生涯忘れることができません。技術者として、あの瞬間に立ち会うことができて、本当に幸せでした」

 2014年10月に発売された書籍「ボーカロイド技術論」(藤本健さんとの共著、ヤマハミュージックメディア)には歌声合成全般とVOCALOID3までの詳細な技術解説がされているが、最後の「VOCALOIDの今後の可能性」で人間の歌声に近づけるための課題として「ダミ声やガナリ声」「複数のライブラリ間での切り替えがスムーズに」を挙げている。これはVOCALOID4で「グロウル」「クロスシンセシス」として、それぞれ実現した

 VOCALOIDの裾野を広げるという点では、ハード、サービス、モバイル、ゲームのそれぞれで取り組んだ。

 ポケットミクやMIKU STOMPに実装された「ボカロチップ」NSX-1のeVocaloid(VOCALOIDをチップに ヤマハ、“歌える”音源LSI「NSX-1」 制御用ライブラリも公開)は原理的にはVOCALOIDとは異なるものだが、同じ声に聴こえるよう工夫を凝らし、スタイラスやキーボード、ギターを含めさまざまな方法で「歌声の演奏」を可能にした。

 作曲できない層までボカロPにしてしまうボカロデューサー機能が使えるクラウドサービス「ボカロネット」(幼稚園児も“ボカロP”に? 聴き手を作り手に育てるために――専門知識ゼロで作曲できる「ボカロネット」の狙い)は「楽曲制作のハードルを“究極まで下げる”」ためのものだ。このように歌詞を入れるだけでさまざまなVOCALOIDの歌声で「作曲」できる。

 iPhoneやiPadでVOCALOIDの作曲ができるようにしたiVOCALOIDを投入し(“どこでもボカロ”可能に iPhone/iPad用「iVOCALOID」発売)、さらにゲーム機でもニンテンドー3DSの「バンドプロデューサー」でVOCALOIDが使えるようになった。

 10年来の課題であったMac版についても、Cubaseと緊密に連携したVOCALOID Editor for Cubase(ボカキュー)が標準制作ツールとなったことで最終的に達成された。ボカキューは2012年に製品化され(伴奏から調教までひとつのアプリで──ヤマハがCubase用VOCALOIDエディタ開発)、2013年にはMac版が登場した(「長らくお待たせしました」――VOCALOIDがMac対応 Cubase用エディタ発売)。このプロジェクトはVOCALOIDプロジェクトでの盟友であった故吉岡靖雄さんらと取り組んだ。

 2008年、初音ミクがヒットした翌年の講演で、剣持氏が挙げた課題「Mac版」「亡くなった人のボカロ化」「ゲーム機、携帯電話への移植」は実現した。

 ヤマハとして初めての英語ライブラリ「CYBER DIVA」を2015年の米NAMM SHOWで披露し、ポピュラーミュージックの本場に乗り込むためのブラッシュアップも行った。

 VOCALOID4発表会で「これからもぜひVOCALOIDを聴いたり、自分で曲を作ったり、新しい音楽シーンをみなさんで作っていただければ」と剣持さんは結んだ。「VY1V4およびVOCALOID4を使った楽曲を聴くと、更に人間に近づいた歌声に身体が震えます」という、リアルな歌声、多様なプラットフォーム、道筋はできた。

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VOCALOID4発表会に出席した剣持さん(左から2人目)

 「自分の中のアイディアを出しきったことで、ひとつの区切りがついた」とし、剣持さんはさらなる発展を新リーダーに託す。

 ヤマハの中田卓也社長はユーザーの感動を作るために「枠を超えるイノベーティブな挑戦が必要」と述べている。中田社長はオールインワンの音楽制作ガジェット名機QYシリーズを担当した伝説的エンジニア。その革新的挑戦のため新設された部署を剣持さんが率いる。

 部署として離れることにはなるが、剣持さんはこれからもVOCALOID関連のイベントや講演などで登場する機会はあるかもと語っており、ボーカロイド系コースを新設する四国大学短期大学部音楽科(四国短大に日本初の「ボーカロイドコース」 その狙いは 「曲作りの素地培う」)の特認教授として4月から講義を行う。

 「これからもVOCALOIDは発展しつづけます。今後ともVOCALOIDをどうぞよろしくお願いいたします」、VOCALOIDの父はそう結んだ

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