サルの遺伝子を操作し、免疫機能を低下させることに成功したと、慶応義塾大学と実験動物中央研究所(川崎市)が7月1日に発表した。人工的に合成した遺伝子を使って受精卵内の遺伝子を操作する「ゲノム編集」技術を活用。マウスよりヒトに近いサルを用いた研究を可能にし、さまざまなヒト疾患の原因解明や治療法の開発に役立てられる可能性があるという。
ヒト疾患モデルマウスの作製には、特定の遺伝子を破壊して機能不全にする「標的遺伝子ノックアウト技術」が多く用いられてきたが、ヒトと解剖学・生理学的に類似している霊長類には同技術を適用できなかった。研究グループは今回ゲノム編集技術を用い、世界で初めて霊長類の標的遺伝子ノックアウトに成功したという。
小型のサル「コモンマーモセット」にゲノム編集を行い、受精卵内の免疫に関わる遺伝子を改変。野生種と比べると、免疫関連の細胞が著しく少ない“免疫不全マーモセット”が誕生した。衛生状態を管理すれば生後1年以上生き続けることができ、成長に従ってヒトの先天性免疫不全症に近い特徴が現れたという。
研究内容は今後、ヒト免疫不全症の発症メカニズムの解明や治療法の開発に役立てるほか、ヒトのiPS細胞(人工多能性幹細胞)をマーモセットに移植し、再生医療の安全性や効果をテストすることも検討する。霊長類のゲノム編集は、自閉症や統合失調症など、原因遺伝子が分かっているヒト疾患の研究にも応用できる可能性があるという。
研究成果は、科学誌「Cell Stem Cell」に6月30日(米国時間)付で掲載された。
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