東京大学と筑波大学は12月1日、共同で新型スーパーコンピュータ「Oakforest-PACS」の正式運用を開始した。総ピーク演算性能は、あのスーパーコンピュータ「京」の2.2倍。10月1日より試験運用が開始され、12月1日時点で「国内最高性能システム」だという。
新型スーパーコンピュータ「Oakforest-PACS」で特記すべき点は、2大学が共同で開発し運用を行うこと。東京大学情報基盤センターと筑波大学計算科学研究センターはこれまで、それぞれに国内有数のスーパーコンピュータを導入しており、独自の研究開発・運用を行ってきた。意見交換や研究者個人レベルでの共同研究はあったものの、今回の取り組みのように大学間を超える組織を作ることは大変だったという。2大学が共同でスーパーコンピュータの調達・運用を行うのは国内初。
同システムは、米Intelの超高性能メニーコア型プロセッサ「Intel Xeon Phi」と同社の新型相互結合ネットワーク「Omni Path」を搭載した計算ノードを8208台搭載した超並列クラスタ型スーパーコンピュータ。計算ノードには富士通の「PRIMERGY CX1640 M1」サーバが採用され、システム製作は同社が行った。また、共有ファイルシステムとして26PB(ペタバイト)の並列ファイルシステムや、940TBの高速ファイルキャッシュシステムが設置されている。ソフトウェアは無償版のLinux(CentOS)を採用。一方、フロントエンドの20台のノードにはセキュリティレベルを高めるため、最新のRed Hat Linuxを入れているという。
Oakforest-PACSが行う最初の目標として掲げられているのは、全球での大気・海洋のシミュレーション。これまで大気と海洋は別々に計算していたが、これを同時に(=カップリング)全球レベルで計算できるようになるという。例えば、地球温暖化のような0.1度の差で大きく違う結果を招く事象に対し、現実に近い条件で計算することでより正確な値を導き出せるという。
このことは他の分野についても同じで、素粒子物理、ものづくり、地震学、物性物理、経済学、データ科学(ディープラーニング、機械学習、ビッグデータ、画像認識など)、医学、医療、バイオなどにも拡張していきたいとしている。
東京大学には次世代AIセンターが立ちあがっており、筑波大学でも近いうちにAIセンターを設置予定。これらの分野においてもそれぞれの機関と密な協力関係を組むことを視野に入れており、そのために高速ファイルキャッシュシステムを導入しているという。
開発コストはマシン、ユース、保守代を含み72億円。これらは国から支援を受けているという。運用コストや人員は、それとは別に両大学が負担。電気代は年間約4億円を見込んでいるという。
「Oakforest-PACS」という名前は、東大で運用してきたスーパーコンピュータ「Oakleaf」と、筑波が開発してきたスーパーコンピュータシリーズ「PACS」のそれぞれの名称に由来。思い入れのあるものだという。
(太田智美)
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