「WELQ」はアウトか? セーフか? DeNAの責任は? 著作権法の観点から弁護士が分析してみた:STORIA法律事務所ブログ(5/5 ページ)
WELQをはじめとした「まとめサイト」の問題は、倫理面や法律面が複雑に絡み合っている。WELQの「リライト」は、著作権法の観点からアウトか、セーフか。著作権に詳しい弁護士の柿沼太一さんが解説する。
今回の騒動でDeNAは法的責任を負うのか
最後に、ユーザー投稿型のサイトにおいて運営者が著作権侵害の責任を負うか、という問題もあります。
たとえば「WELQに著作権侵害となる記事が投稿された場合に、DeNAが法的責任を負うか」「NAVERまとめに著作権侵害があった場合LINEが法的責任を負うか」という問題です。
まずはプロバイダ責任制限法を理解しよう
この問題については、プロバイダ責任制限法、正式名称「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」を理解することが重要です。
まずこの図を見てください。
ユーザー投稿型のサイトは、記事を投稿する投稿者、投稿された記事を見る閲覧者、サイトを管理するサイト管理者がいます。
サイト上には著作権侵害などの法的な問題がない真っ白な記事、グレーな記事、著作権侵害ど真ん中の真っ黒な記事など、様々な記事が投稿されます。それら全ての記事について、サイト管理者がすべて事前確認をしたり、常時監視を行って真っ黒な記事をいちいち削除しなければならないとしたのでは、サイト管理者の責任が重すぎます。
そこで、プロバイダ責任制限法は以下の場合に限ってサイト管理者の責任を認めています。プロバイダ責任「制限」法となっているのは、このようにサイト管理者などの責任を一定の場合に制限しているためです。
1 他人の権利が侵害されていることを知っていたとき(プロ責法3条1項1号)
2 違法情報の存在を知っており、他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき(同法3条1項2号)
3 サイト管理者自身が当該違法投稿の「発信者」であるとき(同法3条1項但書)
1と2はほぼ同じようなことですが、サイト管理者が権利侵害を知っていれば、その削除は容易であることから「違法投稿を知っていながら放置していた」場合に限って責任を認める、というものです。
3についても、サイト管理者自身が違法な投稿をしていれば責任を負うことは当然ですからこの場合にもサイト管理者は責任を負います。
WELQに著作権侵害となる記事が投稿された場合に、DeNAが法的責任を負うか
WELQの場合、記事を投稿しているのは個々のライターです。ですので、著作権侵害となる記事が投稿された場合には個々のライターがその責任を負うのは間違いないのですが、本件では、DeNAがマニュアルや記事作成のシステムなどを用意してライターに記事制作を依頼しています。
このような体制の下で著作権侵害となる記事が制作され、同記事が投稿された場合には、記事発注者であるDeNA自身が当該記事の「発信者」に該当し、免責されない可能性はそれなりに高いのではないかと思います。
まとめ
問題は切り分けた方が良い
今回の問題は企業としての倫理の問題、著作権法上の問題、薬機法上の問題、記事内容を信じた人が損害を被った場合の法的責任の問題など法律的/社会的な問題が複雑に絡まり合っているが、切り分けた方が良い。
「引用」に関する大いなる誤解
著作権法上の「引用」の要件はぜひ覚えておくべき。
「リライト」はどこまで許されるのか
「翻案」に該当するリライトはアウト。元ネタの創作性が高いか低いかによってもどこまでのリライトがセーフかは異なる。
写真については特殊な問題がある
写真については、「適法なソースから」「埋め込みリンク方式で表示」した場合には著作権侵害にはならないが、サーバにアップロードしたり、違法ソースにリンクを張ったりする行為は著作権侵害となる。
今回の騒動でDeNAは法的責任を負うのか
プロバイダ責任制限法の解釈が問題となるが、WELQの記事制作体制を前提とすると、著作権侵害の記事があった場合DeNAも法的責任を負う可能性があると思われる。
著者プロフィール
弁護士・柿沼太一
1973年生まれ。00年に弁護士資格取得後、著作権に関する事件を数多く取り扱って知識や経験を蓄積し、中小企業診断士の資格取得やコンサル経験を通じて企業経営に関するノウハウを身につける。13年に、あるベンチャーから案件依頼を受けたのをきっかけとしてベンチャー支援に積極的に取り組むようになり、現在ベンチャーや一般企業、著作権関係企業の顧客多数。STORIA法律事務所(ストーリア法律事務所)所属。ブログ更新中。
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