サルとヒトは視覚情報を伝える脳構造が似ている 136年前の古典的研究成果、最新のMRI技術で証明
136年前に2次元のスケッチで報告された線維束の全体形状が、3次元のMRIデータを用いて解明された。
情報通信研究機構(NICT)は3月23日、視覚情報を伝える脳の線維束がサルとヒトで類似していることを最新のMRI技術で証明したと発表した。この研究は、今から136年前(1881年)にドイツのカール・ウェルニッケ(Carl Wernicke)氏が2次元のスケッチで報告していたが、スケッチからでは実際の3次元形状を詳しく知ることができないとされ、その後ほとんど研究されなかったという。しかし今回の研究では、最新のMRI技術を用いて3次元データを解析。ウェルニッケ氏のスケッチを初めて再現することに成功し、136年前の研究成果を証明する形となった。
脳内では、視覚情報処理をつかさどる場所同士を「線維束」と呼ばれる組織で結んでいる。ヒトはこれによって視覚情報を処理しながら日々過ごしていると考えられており、病気などで線維束が障害を受けると生活にも影響が出るとされている。
今回、サルの脳を対象に取った高解像度の拡散強調MRIデータを解析し、ヒトのデータと比較。すると視覚に関する多くの線維束に共通性がみられ、サルの脳内で視覚情報処理に関わる線維束は「ヒトの脳とある程度似ている」ことが分かったという。
さらに、ヒトの脳内で視覚野の上側と下側を結ぶ線維束(Vertical Occipital Fasciculus)について、サルの脳内にも同様の線維束があることを発見。サルのこの線維束は、ウェルニッケ氏が1881年に2次元のスケッチで報告していたものに近似しており、今回の最新MRI計測で初めてスケッチ内容を再現できたとしている。
この発見で、これまでサルを対象として行われてきた研究をヒトに応用したり、脳の病気や認知機能の解明に役立てたりできる可能性があるという。
研究成果は、神経科学の国際科学誌「Cerebral Cortex」に掲載された。
(太田智美)
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