ルクセンブルクといえば、白ワイン。筆者はルクセンブルク最大規模のICT(情報通信技術)イベント「ICT Spring Europe 2017」に訪れているのだが、毎日白ワインを楽しんでいる。
ワインといえばフランスなどをイメージする人が多いと思うが、ルクセンブルクのワインを飲んだことがあるだろうか。優しくスラッとしたその味に、筆者はメロメロである。
ルクセンブルクにはドイツとフランスの国境近くに「Domaine Henri Ruppert」というワイナリーがある。せっかくなのでそこへ行ってみた。
ワイナリーには、一面ブドウ畑が広がっており、その中にポツンと建物が立っている。そこではワインと一緒に食事が楽しめる。
建物には10分の1程度の水が張られた大きなプールが完備されているが、これは泳ぐためのものではない。低温で湿度を高くすることでワインの品質を保とうと、プールに水を張り、その下にある地下のワインセラーを冷やしているのだ。ここでは、ブドウの育成から収穫、ジュースにして発酵させるところまで、全て行われている。
地下のワインセラーでは、自慢の白ワインやスパークリングワインをたっぷりと試飲させてくれる。おいしい白ワインをたっぷりと――と、3杯目くらいに突入したころだろうか。ふと、こんなことを思った。
日本では近年、農業とITを組み合わせる取り組みに注目が集まっている。例えば、食べごろを見極めて収穫してくれる「イチゴ収穫ロボット」などの研究は記憶に新しい。もしブドウの食べごろを知らせてくれるセンサーや収穫を手伝ってくれるロボットがあったら、効率よくおいしいワインが作れるかもしれない。そういったITによる農業の発展の可能性を、IT先進国であるルクセンブルクのワイン農家の人はどう思っているのか。ワイナリーのオーナーであるアンリ・ルパートさんに尋ねてみた。
すると、答えは意外にもポジティブではなかった。ブドウは1度の収穫時期につき3回に分けて収穫されるが、作りたいワインによって適切な糖度が異なるという。例えば、すっきりとしたスパークリングワインを作りたいのであれば、あまり糖度が高くないタイミングで早めに収穫する。逆に、甘いワインを作りたければ、糖度が高くなるまで待って収穫する。ルパートさんはそれを見極めるため、何度もブドウ畑に足を運びテイスティングしているという。その後、糖度を測る機械にかけて分けるのだが、決して最初から機械を使わない。半分は自分たちの経験、半分は機械によって、ブドウを見極めている。
「もしも、収穫時を教えてくれるセンサーやロボットがあったら使いたいですか?」――答えはノーだ。ルパートさんはこう話す。
「ワインづくりは、いわばアーティスト。アーティストとして、ロボットやセンサー技術を使うという選択肢はもちろんあるけれど、そこをロボットに託してしまうと私は個性が出せない気がする。ブドウを育てていく過程で、湿度や天候を測るためにITを使うのは全くかまわない。しかし、ブドウの状態を見極めて収穫するという職人技は、われわれの個性であり、ワインの個性でもある。こういうワインを作るためには、こういう状態のブドウをこのタイミングで収穫しよう――という判断は、自分の感覚を信じてやっていきたい」
(太田智美)
関連記事
- 火星に「氷の家」をつくる建築家・曽野正之さんに聞く 「地球も火星も同じ。結局住むのは人だから」
彼らが追い求めていたのは、「物体」としての建築ではなかった。 - カード番号とセキュリティコードが記載されていない新しい「クレジットカード」、ルクセンブルクのICTイベントで展示
ルクセンブルク最大規模のICTイベント「ICT Spring Europe 2017」の展示におもしろいものがあった。 - SpaceX、再利用「ファルコン9」の打ち上げをライブ配信へ
SpaceXが、ロケットの再利用を初めて試みる。日本時間の3月31日午前7時27分からリサイクル「ファルコン9」の打ち上げを実況する。 - ドイツとフランスで中波AMラジオ放送が終了
2015年末、ドイツとフランスで中波AMラジオ放送が終了した。 - NTTコム、ドイツ最大のデータセンター事業者買収
NTTコミュニケーションズがドイツ最大のデータセンター事業者e-shelterを買収。欧州でサーバルーム面積を5倍弱に拡大する。 - さよならWindows Live Messenger Skypeへの統合開始
Windows Live MessengerのSkypeへの統合が4月8日から順次始まる。約14年間提供されてきたWindows Live Messengerは終了する。 - AppleのWWDC直前:Google、3Dの「Tour Guide」などモバイル地図関連の新技術を発表
Appleが次期iOSで3D機能搭載の独自地図技術を採用するとうわさされる中、GoogleがiOSを含むモバイル向けのGoogle MapsおよびGoogle Earthの新機能を披露した。 - 日本のPCユーザーの4割が違法コピーソフトを入手 BSA調査
日本のPCユーザーの39%が違法コピーソフトを入手したことがあり、インストールされたソフトの5本に1本が違法コピーされたものだったという。 - Skype、iOS向け最新版のバグ修正完了
アップデートするとアカウント設定が表示されなくなるなど問題があったiOS版Skypeの修正版が公開された。 - iOS版Skype、アップデートでBluetoothに対応 ただしバグ修正中
iPhone、iPad版のSkypeでBluetoothヘッドセットが使えるようになる。ただし公開中のバージョン3.5.84にはアカウント設定が表示されないなどのバグがあるため、修正版が出るまでアップデートは待った方がいい。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.