連載:コンピュータで“錯視”の謎に迫る
あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。
第1回では、「フラクタル螺旋(らせん)錯視」を紹介しました。それでは早速、この図形から数学を使って錯視要素を魔法のように取り除いてみましょう。
どうですか、錯視(渦巻いている感じ)がなくなっているでしょう! フラクタル螺旋錯視と似たような図ですが、こちらはフラクタル島が同心円状に配列されていることがしっかり分かると思います。
これだけではありません。私たちは錯視を除去するだけでなく、数学を使って錯視を強めることもできました。次の図形をご覧ください。
フラクタル螺旋錯視よりも、より急速に中心に向かって渦巻いているように見えるはずです。もちろん、フラクタル島は同心円状に配列されているだけです。
このように、錯視図形から錯視を除去したり、錯視を強化したりすることは、これまでできませんでした.私たちが現代的な数学を使って世界で初めて成功したのです。
数学を使うとなぜこのようなことができるのでしょう。これを説明するには、数学だけでなく脳内の視覚情報処理に関する知識も必要になります。詳しい説明はおいおいしていくことにしましょう(専門的な話でもOKという方は、学術論文(PDFファイル)をご覧ください )
次回以降は、別のオリジナル錯視画像や、数学的な研究結果を紹介したいと思います。ご期待ください。
著者:新井仁之(あらい ひとし)
東京大学大学院数理科学研究科・教授、理学博士。
横浜市生まれ。早稲田大学、東北大学を経て現職。
視覚と錯視の数学的新理論の研究により、平成20年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)を受賞、また1997年に複素解析と調和解析の研究で日本数学会賞春季賞を受賞。
この記事は、新井仁之教授が自身のWebサイトに掲載した「目の錯覚と魔法の数学 第2回」(2010年8月27日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集・再構成し、転載したものです。
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