日本のアニメキャラクターの公式ライセンスを受けたフィギュアを売っている企業が、ルクセンブルクに存在する。会社の名前は「TSUME ART」。彼らは「NARUTO -ナルト-」や「ONE PIECE」「ドラゴンボール」といった有名アニメのキャラクターライセンスを取得し、ヨーロッパを中心にグッズを制作、販売している。
扱うものは、手のひらサイズの小さなフィギュアから等身大・巨大フィギュアまで。最近では、そのライセンスを使い、ファッションやエンターテインメント分野まで広く手掛けている。
彼らはなぜ“ライセンス取得”という高い壁がありながらも、自分たちの手で公式フィギュアを作りたいと願ったのか。そしてどのようにライセンスを得ることができたのか。ルクセンブルクにあるオフィスを訪ねた。
TSUME ARTの創立は2010年。それ以前は販売代理店として、日本のフィギュアを海外に売っていた。TSUME ARTの創業者でありCEOのシリル・マルショール(CYRIL MARCHIOL)さんは言う。
「10年前くらいは90%くらいが海賊版で、海賊版の製品は目が変なところについていたり、箱に入っていて買うまで見せてもらえなかったりした。それを私は許せなかった」
「子どものころ毎日のように日本のアニメをテレビで視聴していた私は、そんな海賊版をどうしても排除したかった。自分自身が作品のファン。だからフェアでいたい。本物のコレクションをモットーにしたかった」(シリルさん)
アニメイベントなどでは必ずと言っていいほど偽物商品が並べられ、当然正規品より安く作り安く売られていたという。そのたびに彼は、大きな声で叫んだ――「これは偽物だ」。
そして、正規品との違いや特徴などを文書にまとめた。そのうちに、彼のもとには「自分の買ったフィギュアが本物か鑑定してほしい」という人が来るようにもなったそうだ。こういったエピソードがきっかけで、彼はいろいろな漫画編集者と知り合い、信頼関係を築いていったという。
しかし当時、日本のアニメ会社はマーケットの中心を日本に置いていた。そのため、フィギュアといえばいわゆる“オタク”向けに作られるものがほとんど。少女系のフィギュアが多く、ヨーロッパの人の好みと若干違うように思えたとシリルさんは話す。「アートとして“ハイクオリティー”なフィギュアがほしかった」(シリルさん)。
子どものころかっこいいと思っていたフィギュアが、いざ大人になって見てもかっこいいと思える――そんなフィギュアを作りたかった。
少年ジャンプ系のヒーローが好きだった彼は、いくつかの作品とライセンス契約。こうして、公式ライセンスを受けたフィギュアを販売する権利を得た。
彼が作るフィギュアのデザインは、アニメよりも原作のスタイルを踏襲。おもちゃではなく「彫刻」をベースにしたヒーローのフィギュアが誕生した。
彼のスタイルは、漫画で「お!」と立ち止まるような格好いいシーンを瞬間的に捉え、ディテールをしっかり描くこと。ギリシャ時代の彫刻が、彼の作品の基になっているという。それを想起させるかのように、姿勢やポージング、肉体美がリアリスティックに描かれている。「ほんの少しだけ、より現実味のあるように心掛けている」(シリルさん)。
TSUME ARTで働くスタッフは40人ほど。そのうち、40〜50%がデザイナーだ。作品のデザインは全てここで作られている。
現在、プロダクトを作る工程は中国で行っているが、一部の製品制作やペイント作業をここルクセンブルクでもできるよう、2018年に向けて工場建設の準備を進めているという。そこにもやはり、シリルさんの強い“本物”への思いがある。「フィギュアのペイントには、映画の特殊メイクのようなスキルが必要。そのノウハウは社内だけで保持したい」(シリルさん)。
TSUME ENTERTAINMENTのロゴ。「TSUME」は「虎の爪」の意。フランスでは自分のサインをするときに「爪痕を残す」といった表現をすることから、「自分のスタイルを表す」という意味で名付けたという
「能力(ナレッジ)とパッションがあれば何でもできる。例えば、コーヒーカップは作れるのに、スピーカーは作れない……なんてことはない。TSUME ARTは今後、ここで作ったものをもっと日本で売っていきたいし、日本のライセンスだけでなく自分のブランドも作っていきたい。そして、TSUME ARTが手掛ける製品を専門に扱うショップを今年中にヨーロッパで6店舗、いずれ世界に20〜25店舗開く。そのショップはエンターテインメント施設で、短編アニメを放映し、ファン同士の集う憩いの場となる。市場を大きく変えたい。Everything people dream」――彼は未来をこう話す。
(太田智美)
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