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“プロ”が作る「新MERY」に価値はあるのか DeNAのメディア事業が進む先

昨年末の“キュレーションサイト問題”を受け、運営体制の見直しを迫られたDeNAが、女性向けメディア「MERY」を小学館と共同で再スタート。この先、DeNAのメディア事業はどうなるのか。南場会長、守安社長の発言から探った。

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DeNAの守安功社長

 「新しい『MERY』が順調に成り立てば、休止している他サイトをどうするかを考える。ただ『WELQ』はこれ以上は無理、対象外だ」――ディー・エヌ・エー(DeNA)の守安功社長は8月9日、決算説明会でそう話した。昨年末の“キュレーションサイト問題”を受け、記事作成・運営体制を見直し、女性向けメディア「MERY」を年内にも再出発させる。この先、DeNAのメディア事業はどこに進むのか。

 昨年末、医療サイト「WELQ」をはじめ、DeNAが運営する一連のキュレーションサイトに対し「信頼性の低い記事が掲載されている」「他メディアからの無断転載が見受けられる」などの批判が相次いだ。この事態を受け同社は、MERYを含む全10のキュレーションサイトを非公開に。その後、再発防止のために社内体制の見直しを進めていたが、南場智子会長は「再開のめどは立っていない」「再開するとしても同じように提供はしない」(3月13日の記者会見より)と説明していた

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非公開前のMERY(2016年12月の公式サイトより)

 あれから約5カ月、DeNAが動いた。8月8日、小学館とともに共同出資会社「株式会社MERY」を設立した。MERYという名前はそのままだが、DeNAによれば「運営体制を抜本的に刷新」。記事作成や編集、校閲などを小学館が、システム構築やネット上のマーケティングなどをDeNAが中心に担当するという。

 「メディア事業運営の肝となる記事作成、編集、校閲は、DeNAにノウハウがないことがより分かってきた。得意な方に主体的に取り組んでもらうほうが、うまくいく確率が高まるのではないか」(守安社長)

 メディア事業をどうするか――同社は小学館と4月から協議を進め、「どういう形であればメディアとして健全かが見えてきたので、年内のサービス再開を目指して新会社を設立した」という。

新MERYは、何がどう変わるのか

 小学館がMERYに携わることで、何がどう変わるだろうか。

 一連のキュレーションサイト問題を調査した第三者委員会の報告書には、次のような説明がある。

 MERYが目指しているのは、「ニーズを生み出す」記事である。すなわち、インターンやアルバイトライターが、ユーザーと同じ目線で、自分が好きな物や良いと思う物を紹介する記事を執筆することにより、紹介された物やサービスにニーズを生み出すことができる。B氏(※)は、これはプロのライターではできないことであると考えていた。

(※)B氏……旧MERYを運営するDeNA子会社・ペロリの創業者、中川綾太郎代表取締役

 報告書によると、旧MERYの記事執筆の主力は、サービス開始当初から「インターン」と呼ばれる女子大学生が担っていた。旧MERYは「(対象読者である)若い女性の生活を『かわいく』演出することを目指したサービス」(報告書より)だったという。

 これに対し、新MERYでは「詳細は定まっていない部分もある」(南場会長)が、記事の作成や編集、校閲を“プロ”である小学館が担当する方針だ。旧MERYの過去記事も一切使わないという。「基本的に十全なメディアになると考えてほしい」(守安社長)

 “作り手”の変化により、コンテンツの中身はどのように変わるのか。守安社長は「(旧MERYは)ファンが多かったサービスなので、そのよいところ、世界観はなるべく維持できるようにしたい」と考えを示した。

 一方、報告書には、DeNAが運営していた10のキュレーションサイトについて、こんな指摘がある。

 各サイトの編集担当者の人数は、サイトによって異なるものの、10名以下しかおらず、編集担当者だけで記事内容を適切に確認することは物理的に困難であった。しかしながら、DeNAにおいては、コスト面から、編集担当者を増員しなかったため、記事内容の確認を含めた編集担当者の業務を外部者に委ねるか、安易なチェック体制を招くことになってしまった

 報告書によると、こうした“人的リソース不足”が、信ぴょう性が低い記事、著作権を侵害した記事が作成・公開される一因だった。裏返せば、人件費を抑えたことで、DeNAのキュレーション事業が躍進した理由でもあった。

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DeNAの南場智子会長

 運営体制を抜本的に見直すとなれば、これまでのように利益は出しづらくなるかもしれない――それでもなお、DeNAがメディア事業に取り組むのはなぜか。勝算はあるのか。

 南場会長は「若い女性向けのメディアは多く、競争が激しいことは理解している」としながら、まずは「どれだけ意味のあるコンテンツを目指せるか」を新会社では検討していくという。

 加えて、守安社長は「収益モデルの組み立ては、健全たるメディアが発展した後になるかと思う」とも。「ユーザーに支持されるメディアになれば、広告売上で事業がきっちりと回るようになると考えている」

新MERYは、メディア事業再生の試金石か

 新会社は、小学館が66.66%、DeNAが33.34%を出資。旧MERYを運営していたペロリと異なり、DeNAの連結子会社からは外れる。DeNAはメディア事業から撤退こそしないが“距離を置いた”とも感じられる――決算説明会では、記者からそんな声も飛び出した。

 守安社長は「記事執筆、編集や校閲などのノウハウは、われわれは持っていない」と繰り返す一方、「これまで作ったシステムを活用できるところは活用する」「キュレーションメディアに限らず、他メディアとの協業でも、ユーザーの獲得、プロモーションなどを得意としてきた」とも。コンテンツを“支える側”の強みを生かし、メディア事業を再興する考えを見せた。

 「現状、まずはMERYから。MERYが成り立てば、休止しているサイトをどうするかを検討する」と守安社長。新MERYは、メディア事業が再生するかを見極める試金石となりそうだ。「(他サイトも)過去の名前を使うのか、違う形にするのかは、MERYが順調になってから。ただWELQについては、これ以上無理。対象外と考えている」(守安社長)

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DeNAが非公開化した10サイト

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