「森のくまさん」騒動からJASRAC問題まで……著作権10大ニュースで考える、情報社会の明日はどっちだ?:寄稿・福井健策弁護士(4/4 ページ)
著作権まわりでもさまざまなニュースがあった2017年。この1年の「10大ニュース」を、弁護士の福井健策さんが振り返る。
9.デジタルアーカイブと知的財産の論議本格化
2017年の一貫した話題として、9番目はこれを挙げておこう。今年は「青空文庫20周年」「メトロポリタン美術館が37万5000点もの美術作品をCCライセンス付でデジタル公開」「国会図書館ジャパンサーチ構想」や「マンガ(現メディア芸術)ナショナルセンター構想」など、年間を通してデジタルアーカイブの話題が尽きない年だった。筆者も理事で加わった「デジタルアーカイブ学会」が4月に発足して300人以上の個人・団体会員を集め、連動して企業コンソーシアムや超党派の議連も誕生するなど、各方面での話題が加速している。
その中心のひとつは、「ヒト・カネ・権利」というアーカイブの壁をどう超えて行くか。作品に関わる大量の著作権・肖像権・所有権などをいかに円滑に処理し、権利者不明(オーファンワークス)の場合に利用・公開への道を開くかである。そのための「デジタルアーカイブ法制」の議論も高まっている。過去の膨大な知の遺産をどう散逸から守り、保存・修復して人々のアクセスをはかるか、いよいよ正念場だろう。
10.著作権「死後70年」へ
と前向きな話題の後、最後はこれである。著作権の保護期間を「著作者の死後70年」に大幅延長せよという欧米の要求は、日本でも2006年以後激論を招いて、いくたびも延長は見送られて来た。直近ではTPPでついに延びたと思いきやトランプ政権の離脱で、国内法は未施行のままだ。
そしてアメリカ抜きのTPP再協議で保護期間延長は「凍結合意」が報じられ、ネット上はある種の「祝賀ムード」に包まれた。延長は権利処理の難しい古い作品を増やすだけで、特に権利者不明のオーファンワークスは激増する。まして日本は古いコンテンツでは大輸入国で、著作権の国際収支はついに年間8650億円と過去最大の赤字幅を記録した。現場の重荷をこれ以上増やしてどうする? ということだろう。
11月、その祝賀ムードに冷や水を浴びせたのが、「実は夏に外務省がEU経済連携協定の交渉で死後70年に同意していた」というニュース。それも、4カ月も遅れて公表されるという失態ぶりである。これで延ばせば、EU以外のアメリカ作品なども日本では自動的に延びる。むしろアメリカにTPP復帰を促す交渉材料がひとつ減るのだろう。少なくとも著作権に関しては百害あって一利もなさそうなニュースで、どうやら今年は幕を閉じる……。
さて、駆け足で概観した今年の著作権10大ニュース。「柔軟な権利制限規定とフェアユース」「遠隔教育」「Wantedly批判ブログ削除とクレーム自動処理の波紋」など、拾えなかった重要ニュースはまだまだひしめく。それらが指し示すのは、やっぱり「情報化の中で著作権制度の前提が大きく変容しつつある現在」だろう。
テクノロジー進化の中、万人が情報の発信者・利用者となり、コンテンツとその流通はけた違いに増加した。それは一方で海賊版や「パクリまとめサイト」の暴走も産めば、他方でアーカイブやユーザー発信・権利の集中管理のありかたをめぐる議論も活発にする。「少数のコンテンツを少数のプロが生産し流通させるビジネスモデル」とそれを支える著作権制度の、きしみが聞こえるような2017年だった。さあ2018年。著作権の、明日はどっちだ?
著者プロフィール
福井健策
弁護士(日本・ニューヨーク州)/骨董通り法律事務所代表パートナー/日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授1965年生まれ。神奈川県出身。東京大学、コロンビア大学ロースクール卒。著作権法や芸術・文化に関わる法律・法制度に明るく、二次創作や、TPPが著作権そしてコンテンツビジネスに与える影響についてもいち早く論じて来た。著書に『著作権の世紀――変わる「情報の独占制度」』(集英社新書)、『「ネットの自由」vs.著作権』(光文社)、『誰が「知」を独占するのかーデジタルアーカイブ戦争』(集英社新書)、『18歳の著作権入門』(ちくまプリマー新書)などがある。Twitterでも「@fukuikensaku」で発信中。
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