国内AR、VR市場は「世界より遅れている」 拡大の鍵は「ビジネス利用」と「体験」
IDC JapanがAR/VR市場の予測を発表。世界的には大きく市場が成長するものの、日本は遅れており、伸び悩むという。
2021年までに世界のAR、VR関連市場は1600億ドル規模へ順調に成長。特にビジネス利用の多いARが伸張するが、日本は遅れており伸び悩む――2月1日、IDC Japanは、AR/VRヘッドセットの市場予測を発表した。
同社によれば、世界のAR市場の年間平均成長率(2017〜21年)が159.7%であるのに対し日本は41.4%。同様にVR市場は62.4%に対し25.7%、関連する業務用ホストデバイスなどの市場は97.1%に対し38.4%と、いずれも大きく差が開くという。
デバイスの出荷台数も21年に世界ではVRが約4000万台、ARが約2000万台規模になる一方、日本はVRが約100万台、ARは約8万台にとどまる見込みだ。
この差は一体どこから来るのか。IDC Japanのシニアマーケットアナリストである菅原啓さんは「欧米と比べ、日本はARやVRのビジネス利用が低い」と話す。米国や西欧のAR/VRのビジネス利用率が10%近いのに対し、日本はARが2%、VRが3%という。
IDC Japanが国内企業に勤務する20〜69歳の男女1000人を対象に行った調査によれば、利用の意向があってもVRをビジネス利用していない主な理由は「外注コスト」(22.2%)、「ヘッドマウントディスプレイの価格」(19.4%)、「収益化が難しい」(19.4%)など金銭の問題が多く、VR固有の問題で上位に入ったのは「VR酔い」(20.8%)のみだった。ARも似た傾向にあるという。
菅原さんは「金銭の問題を理由にするのは『新しいものを断る時の常とう手段』。クラウドが出始めた時も同じような反応が多かった」と話し、本当に課題なのは「自分たちに関係することだと捉えている人が少ないこと」と指摘する。そこで有効になるのが「ARやVRを実際に体験してみること」という。
「ARやVRを知らない人よりも体験したことがある人の方が、実際に採用したり導入意向を持っていたりすることが多い。個人の体験とビジネス利用には相関関係がある」(菅原さん)
前述の調査で「個人的にVRを体験したことがある」と回答した人の割合は、VRをビジネス利用している人だと44.4%、利用を考えている人は66.7%だったが、利用予定のない人の場合16.9%にとどまった。AR体験者の割合も、ビジネス利用をしている人なら43.5%、利用を考えている人は41.5%と4割を超えたが、利用予定のない人は6.3%だった。
「貸し出しやデモ体験が、ARやVR採用の1つの契機になる。ある企業では、企業担当者とベンダーが作り込んだ3分間のデモを社長室に持ち込こんだ結果『これはすごい、使おう』となった。こうした企業との二人三脚も含め、(ARやVRを)見せていく努力、体験を広げる努力が必要なのではないか」(菅原さん)
こうした体験の裾野をどれだけ広げられるかが、今後の市場拡大の鍵になるという。導入のネックとなる金銭問題については「個別に『これはいくら』と予算を決めて導入するのではなく、『こういうソリューションが必要だから、このテクノロジーが必要だ』とテクノロジーを選んでいく必要がある。そういう意識を持てる人がいないと、今後世界と戦っていくのは難しいだろう」(菅原さん)とした。
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