京大の式辞「適法な引用と判断している」 JASRAC浅石理事長
昨年、京都大学総長が入学式で述べた式辞を、京大がWebサイトに掲載したところ、JASRACが利用状況を問い合わせたことが波紋を呼んだ。JASRACの浅石道夫理事長は同団体主催シンポジウムで改めて「適法な引用に当たる」との見解を示した。
「式辞の中のボブ・ディランさんの歌詞は“適法な引用”といえるか」――昨年、京都大学総長が入学式で述べた式辞を、同大学がWebサイトに掲載したところ、日本音楽著作権協会(JASRAC)から利用状況について問い合わせを受けたことが波紋を呼んだ。他人の著作物を「転載」する場合は相手の許諾が必要だが「引用」の場合は許諾は必要なく、式辞の掲載が「引用」に相当するかが議論の対象。JASRACの浅石道夫理事長は昨年5月に「引用に当たる」との見解を示したが、1月31日に開催した同団体主催シンポジウムで改めて経緯を説明した。
「適法な引用と判断している」
式辞では、京都大学の学生に求める「常識にとらわれない自由な発想」を、ディランさんの歌詞の一部を取り上げて説明。ディランさんの歌詞部分は、式辞全体のおよそ5%に当たり、式辞を掲載したページの文末には「“ ”は、Bob Dylan氏の『blowin' in the wind』より引用」と記されている(Blowin' in the Wind:邦題『風に吹かれて』)。
しかし京都大学によれば、音楽著作権を管理するJASRACから問い合わせを受けた。昨年5月、ITmedia NEWSの取材に対し、大学側は「Web上に歌詞を掲載する場合、使用料に関わる手続きが必要と伝えられた。明確にいくらとは聞いていない」と回答していた。
シンポジウムで浅石氏は「『式辞自体が引用に当たらない』から著作権使用料を支払ってほしい、ということではなく、特にネット上に載せるとき、京都大学側の引用に対する考え方は一体どういうものかを問い合わせた」と説明。「(使用料は)請求していない」と強調した。
浅石氏は、式辞の掲載内容について「適法な引用と判断している」という。
判断の根拠は
早稲田大学法学学術院の上野達弘教授によれば、引用要件を実務上で判断する基準には(1)公表された著作物であること、(2)どこまでが引用先で、どこからが引用元なのかを明瞭にすること(明瞭区別性)、(3)引用先の文章がメインにならないこと(主従関係)、(4)引用に必然性(必要性)があること、(5)必要最小限度であること、(6)改変禁止、(7)出所を明示すること――という「7要件説」がある。
浅石氏は、式辞内容がこうした要件を満たしていると判断したという。「(明瞭区分性、主従関係に基づいて)総長が言いたいことを歌詞が補完していると思っている。必要な範囲の分量でそのまま『引用』しているので、著作者人格権の侵害もない(=改変もない)」(浅石氏)
また、当時はボブ・ディランさんがノーベル文学賞を受賞してから数カ月後ということもあり「他の人を引くのではなくディランの詩を引いたことに必然性がある」と浅石氏は考えているという。
式辞では詩人の茨木のり子さんの作品も「引用」されているが、浅石氏は「音楽作品ではないのでコメントは控える」とした。
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