「AIが犯罪を予測する世界」が危険なワケ(5/5 ページ)
AIで犯罪を予測・予防するシステムが登場するテレビドラマや映画がいくつも登場している。実際、AIを使って犯罪を防ぐことは可能なのか。
ところで、最近は政府・与党が2020年の東京五輪・パラリンピックの酷暑対策として、夏の時間を2時間繰り上げる「サマータイム」を導入する検討に入ったとして、話題になりました。サマータイムなんて気合と根性で解決する類の話ではなく、何年にもわたる綿密で入念な準備が必要です。それがどうして五輪の暑さ対策として、いきなり俎上に載せるのでしょう。
システムに無理解な権力者が余りに多すぎないでしょうか。どうして官僚の誰も「とても無理です」と返答できないのか、不思議でなりません。
人工知能を研究する東京大学の松尾豊特任准教授は、外資就活ドットコムのインタビュー(外部リンク)で、AIをめぐる研究開発を太平洋戦争に見立てていました。前線で戦う部隊のために軍需品や食料などを供給する兵站(へいたん)を構築できなかった上層部(恐らく省庁やら大企業の偉い人)を断罪しています。
確かに似た話です。見たことが無いから感覚でしか判断できないという「視野の狭さ」と、きっと何とかなると思っている「見通しの甘さ」。何度、同じ過ちを繰り返せばいいのでしょうか。
今のままでは「犯罪の予測と予防」という人権に関わる重要な問題ですらも、AIなんて何一つ分からない人たちが「データがあればAIがきっと何とかしてくれる」と考えて、導入を進めていきかねません。
私は「正しいことをしたければ偉くなれ」というせりふが好きです。それぞれがそれぞれの立場で、本当に正しいことをするためには、日本という大企業の中で偉くなるしかないのでしょうが、それまでに日本は大企業でいられるのかが最近の疑問です。
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
編集部より:著者単行本発売のお知らせ
人工知能に仕事を“奪われる”、人工知能が“暴走する”、人工知能に自我が“芽生える”――そんなよくありがちな議論を切り口に、人工知能の現状を解説してきた連載「真説・人工知能に関する12の誤解」が、このたび、書籍「AIは人間の仕事を奪うのか? 〜人工知能を理解する7つの問題」として、C&R研究所から発売されました。
連載を再編集し、働き方、ビジネス、政府の役割、法律、倫理、教育、社会という7つの観点から、人工知能を取り巻く問題を理解できる構成に仕上げています。この本を読めば、人工知能の“今”が大体分かる――連載を読んでいた方も、読んでいなかった方も手に取っていただければ幸いです。本書の詳細はこちらから。
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