「破壊的イノベーターに反撃」──Armが買収した日本人経営の米トレジャーデータ、IoT分析基盤の拡大狙う
米Treasure Dataを買収したことで実現した英Armの新しいIoTデータ管理プラットフォームの提供が日本で始まった。買収発表後、初めて公の場に姿を現したTreasure Dataの芳川社長は、IT企業大手が長年かけて構築してきた自社基盤に近しいものを提供できると自信を見せる。
「破壊的イノベーターに反撃する準備が整った」──ビッグデータ分析を手掛ける米Treasure Dataの芳川裕誠元社長は、英Armからの買収による効果をそう話した。
ソフトバンク傘下となった英Armの日本法人・アームは8月22日、IoTデバイスやIoTで得たデータを一括して管理できるプラットフォーム「Arm Pelion IoT Data Platform」の提供を日本で始めた。日本人経営のTreasure Dataの買収によって実現。芳川裕誠元社長は、ArmでIoTサービスグループ データビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーに就任する。
左から、発表会に登壇したソフトバンクの宮内謙社長、英ArmのIoTサービスグループ プレジデント ディペッシュ・パテルさん、芳川裕誠さん(Arm IoTサービスグループ データビジネス担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャー)
Treasure Dataは、2011年に芳川さんら3人の日本人がカリフォルニア州マウンテンビューで創業した非公開企業。購買履歴やIoTデバイスのデータをマーケティングやプロダクト開発に役立てられるクラウドベースのカスタマーデータプラットフォームを300社以上の顧客に提供してきた。
米Bloombergの報道によると、ArmによるTreasure Dataの買収総額は約6億ドル(約660億円)。Treasure Dataの技術をArmのIoTデバイス管理サービス「Arm Mbed Cloud」と組み合わせてArm Pelion IoT Data Platformを提供する。
なぜArmと手を組んだのか
ユーザー企業がマーケティングなどに活用するカスタマーデータプラットフォームは、Treasure Dataの中核を担う事業だ。同社はArmと手を組むことでデータ基盤の活用分野を広げる狙いがある。
「われわれが(データ基盤で)目指しているのはデジタルマーケティングだけではない。あらゆるデータを預けていただくことで、いろいろな場面で新しい『Arm Pelion』によるデータ分析を活用していただく──そんなビジョンの実現をArmと固い握手を交わして決断した」(芳川さん)
芳川さんは、人が生成したデータとIoTデバイスが生成したデータがデータ基盤上で組み合わさることで、新たなデータの価値が生まれていると自動車保険を例に解説する。
「これまでクルマの保険料を決めるのは、『40代の男性は18歳の女性よりも運転が安全に違いないから保険料が安くなる』といった静的なデータだった。これは少しおかしい。クルマの走行ログをリアルタイムに取得できるテレマティクスによって、本当にパーソナライズされた保険商品の提案が可能になる。データをミックスできるカスタマーデータプラットフォームが、ビジネスイノベーションのゆりかごのような役割を果たす」(芳川さん)
旧来の企業はデジタルトランスフォーメーションを強いられている
芳川さんは、自社の分析サービスが支持される理由として、多くの企業がデジタルトランスフォーメーションを強いられている状況にあると説明する。
米国の企業番付「Fortune 500」にランクインした企業のうち、約52%が過去15年で入れ替わっているという。つまり、大企業が大企業であり続けることが難しくなっている。
その背景として、GoogleやFacebook、Amazon、NetflixなどのIT企業大手がビジネスを拡大するにつれて既存ビジネスを破壊している点が挙げられるという。北米ではUberやAmazon、Netflixの台頭によって、タクシー大手の米Yellow Cab、玩具大手の米Toys"R"Us、DVDレンタルチェーン大手の米Blockbusterが倒産に追い込まれたとされている。
芳川さんは、破壊的イノベーター企業が旧来の企業と異なるのは、従来のマスマーケティングを用いた手法ではなく、データを活用したパーソナライズによって徹底的な顧客の解析を行っていると分析する。
「徹底した顧客理解には、大きな投資とテクノロジー企業としてトップエンジニアに対する求心力が必要。しかし、スタンフォード大やマサチューセッツ工科大の学生はGoogleやFacebook、Uberに行きたがる。既存の破壊される側の企業はそこまでの求心力がない」(芳川さん)
Treasure Dataは、GoogleなどIT企業大手が長年かけて構築してきた顧客分析のための自社基盤に近しいものを、大企業なら誰でも使えるカスタマーデータプラットフォームとして提供できるのが強みだという。
「一番大事なのはどれだけ顧客に還元できるか。トレジャーデータが目指しているのは、世界でも有数のIoTビッグデータプラットフォームを作ること。Armと手を組むことで、これまでやられる一方だった破壊される側の企業がようやく反撃できる準備が整った。いろいろな可能性が広がると確信している」(芳川さん)
【訂正:2018年8月23日午後12時20分 初出時、芳川裕誠さんの役職を米Treasure Dataの芳川裕誠社長としていましたが、現時点で齟齬がないものに修正しました。】◆
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