西暦202×年、工事現場から人が消える:特集・ビジネスを変える5G(2/2 ページ)
近い将来、危険な工事現場や災害現場で作業する人は激減するかもしれない。5Gの高速大容量通信により、建設機械の遠隔運用が実現するからだ。
5Gを補完する「モバイルエッジコンピューティング」
ただし、5Gがいくら高速大容量でも後ろにあるネットワークが追いつかない場合も考えられる。そして5Gは、2020年以降に一般回線として多くの人たちが使うことが決まっている。
トラフィックが増えれば、ネットワークのどこにボトルネックや輻輳(ふくそう)の原因が生まれるか分からず、人の命や安全に関わる用途には使いにくい。なにより「遠隔地からの操作では遅延も1秒を超える可能性がある」と志水氏は指摘する。実際、Wi-Fiで遠隔操縦する場合は、「一般回線(モバイル回線やインターネット)に出ないよう、現場の敷地内から遠隔操縦している」という。
こうした遅延の問題を解決し、将来の遠隔操縦を可能にすると期待されている技術が、モバイルエッジコンピューティング(MEC)。移動通信網のエッジ(=ネットワーク的に利用者に一番近い部分)にあたる基地局にストレージやアプリケーションサーバを配置して処理の遅れを防ぐというアプローチで、2013年頃、携帯デバイスからのクラウド利用が拡大することを見越してノキアが提唱した。現在は欧州で標準化が進められている。
「例えば建設会社などのアプリケーションサーバをNTTドコモの移動通信網に入れる。有線区間はエンド・ツー・エンドでつながるため遅延は最小限に抑えられる」(志水氏)。5GとMECの合わせ技により、建機の遠隔操縦はもちろん、コネクテッドカーやロボットの遠隔操作、遠隔医療など、リアルタイム性が求められる多くの用途で5Gの活用が進むと期待されている。
11月28日、NTTドコモは東京大学大学院情報学環 中尾研究室(中尾彰宏教授)と共同で、5Gを活用したコネクテッドカーの協調運転支援実証実験に成功したと発表した。協調運転支援は、クルマとクルマ、クルマと道路が情報をやりとりし、事故の防止を含む運転支援を行う。しかし遅延があると、例えば障害物の存在を把握してからブレーキを作動し、停車するまでの時間が長くなってしまう。
そこで実験では、5G基地局にMECサーバを直結して情報処理を行うとともに、無線区間の遅延を約1ミリ秒まで抑えた。これにより、3台のラジコンカーが接触することなく安定して走行できたという。
安全で効率的な「未来の現場」や「未来の交通」に欠かせない5G。それ自体は単に高速なワイヤレス通信技術かもしれないが、MECなど新しいネットワーク技術と組み合わせることで可能性は大きく広がっていく。
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