“がっかりAI”はなぜ生まれる? 「作って終わり」のAIプロジェクトが失敗する理由:きょうから始めるAI活用(5/5 ページ)
AI(人工知能)は「作って終わり」ではなく、その後の運用次第で成否が決まると言っても過言ではない。運用時に気を付ける3つのポイントとは。
これも第1回で紹介したように、米国の調査会社Gartnerは、「今後AIに対する過剰な期待がはじけ、幻滅期に突入するだろう」と予測している。それは具体的なAIアプリケーションの開発・導入の本格化はこれからであるにもかかわらず、AIに対する期待が過剰に膨れ上がっており、これからその実態を目の当たりにすることで、多くの人々が「がっかり」することが予想されるためだ。
これはAIに限った話ではなく、あらゆるエマージング・テクノロジー(今後大きな効果が期待される新技術)の場合と同様なのだが、AIはまさにその坂道を転げ落ちる一歩手前というわけである。
「AIは何でもできる」という誤った認識は確かに解消しなければならないが、かといって過度の幻滅が広がり、AI関連予算が削減されてはたまらない。前述の通り、AIは「入れて終わり」ではなく、さまざまなフォローを行う必要がある。継続的に予算を獲得していかないと、せっかく手に入る成果も実現されないままに終わってしまう。
それを防ぐには、良いことも悪いことも含めて「AIとはこういう技術だ」という正しい認識を社内に醸成する必要がある。そのためには、社内で実際にAI導入を進めた経験とノウハウを共有するのが何より効果的だ。逆にそれを怠ると、社外からの誤った情報や知識(その中にはAIベンダーや導入企業が大量生産する「アピールのためのプレスリリースやPR記事」も含まれる)によって、誤った期待感が生まれかねないという点に注意してほしい。
成果の情報共有によって獲得できるのは、AI運用のための予算だけではない。「自分も参加してみたい」という人材や、「これが可能ならこういう活用はどうか」というアイデアが集まることも期待できる。「面倒だから」「もう手離れさせたいから」と思わずに、情報共有というフォローにも取り組むべきなのである。
「きょうから始めるAI活用」という連載名で、AI初心者向けに「AI導入プロジェクトを任されたら、何に注意する必要があるか」を解説してきた。実際のAI開発・導入では、具体的な技術の詳細や開発理論など、さまざまな専門知識が必要になるだろう。しかしそうした知識は、いくらでも外部からのサポートを受けて補うことができる。枝葉の難解さにひるむことなく、(1)目標の明確化、(2)データの準備、(3)技術と効果の検証、(4)開発後のフォロー、という軸を忘れずに、上司からの「AIどうにかして」というむちゃぶりに立ち向かってほしい。
著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。
関連記事
- 「AIプロジェクトを担当してくれ」突然の上司のむちゃぶり あなたが最初にやるべきことは?
「ウチの会社でもAIを使おう」――急に上司からこんなむちゃぶりが飛んできたら、どうすればいい? AI初心者のビジネスパーソン向けに企業のAI導入について分かりやすく解説する新連載がスタート。 - ある日突然「AI担当」になったら何をすべきか プロジェクトを成功させる”データ準備”のコツ
ある日突然「AI担当」に任命されたが、何をしていいか分からない――そんなAI初心者のビジネスパーソン向け連載。今回はAI導入前のデータ準備について。 - 「早くイイ感じのAI作って」 むちゃぶり上司には“急がば回れ”で立ち向かえ!
AIプロジェクトの担当者になったあなたは、どういった準備を進めていけばよいのだろうか。目標設定、データ準備が済み、いよいよPoCに取り掛かる。 - “自称AIエンジニア”を見破るには? 採用担当に伝えたい「ゴレンジャイ問題」
「AI人材の採用がうまくいかない」と感じている採用担当者は少なくないだろう。また、いざ採用しても求めていた人材と異なるというミスマッチの問題もある。どうすれば良いのだろうか。 - 「AI開発ミステリー 〜そして誰も作らなかった〜」 とある大手製造業の怖いハナシ
“AIベンチャーで働きながらネットで情報発信しているマスクマン”こと、マスクド・アナライズの新連載がスタート。AI開発のリアルな現状をお届けします。第1回は、AI導入に踏み切ろうとするも、ミステリー小説並の恐ろしい事態になってしまうある大手製造業のお話です(恐らくこの物語はフィクションです)。 - 「AIが仕事を奪う」への疑問 いま、“本当に怖がるべきこと”は
「人工知能が原因で失業する」。しばしば、AIはこうした脅威論の文脈で語られることがある。AIは本当にそこまで怖いものなのだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.