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Tカード情報の“令状なし提供”、本当に監視すべき相手は?ITりてらしぃのすゝめ(2/2 ページ)

「Tカード」会員の情報が、令状なしで捜査機関に提供されていることが話題になった。この問題から、私たちはどんなことに気を付ければいいのだろうか。

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2019年は、私たちにとって“プライバシー元年”?

 これらの共通ポイントや交通系ICカードが持つ情報がなぜセンシティブなのかについては、この連載でも取り上げました。記事内では、たとえ本名や住所、連絡先が伏せられたとしても、ビッグデータから容易に個人を特定できる可能性があることを紹介しました。

個人情報
2018年1月にTカード会員の情報を使ったサービス企画を考えるイベントが発表されていた。参考:特設サイト

 このときはあくまで私企業が運営する共通カードの情報を指していましたが、今回の問題は捜査機関に対する情報提供のため、少々性格が異なるように見えるかもしれません。今回の問題は「令状なしに」その情報を提供してしまったことにあります。

 中には「警察の捜査でしょ? 自分がやましいことをしてなければ何も問題ないじゃないか」と思う人もいるでしょう。その通りではありますが、捜査機関が“正しい捜査をしている”という大前提が守られているかは分かりません。恣意(しい)的に、個人的な“捜査”が行われていないという保証がない以上、正式に令状を取った上で運用すべきであり、現在の制度のバグなのではないかというのが個人的な感想です。

 今回の事件は、恐らく多くの方のプライバシー意識を一段階上げたのではないかと思います。プライバシーに関してはまず、私たち自身がその意識を高めることが重要。今回の事件で気になった方は、多くの関連書籍を手に取り、読んでいただくことをお勧めします。

これは「自由対統制」の戦いかもしれない

 今回の件は、単なる「カード利用者vs共通カードを運営する企業」という図式なのでしょうか。むしろ私たち利用者と捜査機関、ひいては「政府」との自由を巡る戦いともいえるかもしれません。

 いわゆる「サイバー攻撃者」には3つのグループがいるとされており、それはマルウェアなどを使って攻撃する「オンラインでの犯罪者」、サイバー攻撃で力を示して世界にメッセージを送ろうとする「ハクティビスト」、そして最後はサイバー戦争をしようとする「政府」です。

 今回の件で「見ておくといいよ」と勧められた動画があります。セキュリティ企業として有名なF-Secureのセキュリティ研究員、ミッコ・ヒッポネン氏のTED Talkです。

 ここでは、上記で分類したサイバー攻撃者における「政府」に関してのトークが行われており、「警察の捜査でしょ? 自分がやましいことをしてなければ何も問題ないじゃないか」という反応に対する彼の持論も語られています。有志により邦訳された一説を引用し、コラムを終えたいと思います。

 このようなことをよく考えた時、人々の典型的な反応はこんな感じでしょう。「まずいことに聞こえるけど 実際は影響ないよ。法を守っているんだからなぜ心配しなきゃいけないの? 隠すことなんてないよ」

 そのような議論は意味がありません。プライバシーは黙示の権利です。プライバシーは議論の対象ではありません。これは「プライバシー対治安」という話ではなく「自由対統制」という問題なのです。

 私たちは2011年現在の政府を信頼しているかもしれませんが、権利を手放すならそれは永遠に手放すことになるのです。将来の政府をみんな盲目的に信頼するのでしょうか? 50年後の政府も?

 これは私たちが今後50年間、心配しなければならない問いなのです。

著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

デジタルの作法
『デジタルの作法』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

筆者より:

2015年2月10日に本連載をまとめた書籍『デジタルの作法〜1億総スマホ時代のセキュリティ講座』が発売されました。

これまでの記事をスマートフォン、セキュリティ、ソーシャルメディア、クラウド&PCの4章に再構成し、新たに書き下ろしも追加しています。セキュリティに詳しくない“普通の方々”へ届くことを目的とした連載ですので、書籍の形になったのは個人的にも本当にありがたいことです。皆さんのご家族や知り合いのうち「ネットで記事を読まない方」に届けばうれしいです。


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