「熟練者を超えるAIも」 日本の工場で顔を出す“技術革新”の芽
「われわれの工場におけるAI活用の研究は、単なる熟練者の代替という位置付けではない」──三菱電機と産業技術総合研究所の共同研究が描く未来は。
「今回発表した工場のAI(人工知能)活用は、単なる熟練者の代替という位置付けではない」――三菱電機の佐藤達志氏(先端技術総合研究所 駆動制御システム技術部長)は、こう話す。
同社は2月5日に都内で開催された記者説明会で、工場の生産ラインの準備作業を効率化するAI技術を産業技術総合研究所と共同開発したと発表。自社のFA(ファクトリーオートメーション)機器やシステムの調整作業をAIで自動化する事例を紹介した。
今回発表されたのは、AIによる製造機械のパラメーター調整の最適化、レーザー加工作業での熟練者の目視による判定の自動化、組み立て用産業ロボットの異常検知の自動化など。熟練した経験や多大な労力を要するような作業をAIに代替させることで作業時間の短縮を図る。また、実務経験の少ない従業員をAIでサポートし、品質のばらつきも抑える考え。
佐藤氏は「工場の現場で熟練者の数が減っており、ものづくりを強みとする日本として今後どうしていくのかという問題意識があった。そこで、まず熟練者並みの作業を誰でもできるようにしたいと考えた」と説明する。
共同研究に当たりさまざまなFA機器・システムにおけるAI活用を検討したが、まずは「現場が一番課題に感じていて、AI活用もしやすかった」(三菱電機)という今回の事例を選んだとしている。
産総研の辻井潤一氏(人工知能研究センター 研究センター長)も、「単なる熟練者の代替」を超えたAIの可能性に期待する。実際、製造機械のパラメーター調整では熟練者が1週間かけて行っていた作業をAIが1日で完了させた。一部の領域では既にAIが熟練者のパフォーマンスを上回っている例もあるという。
「ひと言で“熟練”と言うけれど、実はそれは客観的にデータ化できるもの。まずは熟練者が何をやっているのかを計算機で解析し、次はこんなデータを取るといいんじゃないかという循環が生まれることで、技術そのものを変えていく可能性がある」(辻井氏)
辻井氏は「多くのデータを蓄積し、より高い精度を目指すために何ができるかを考えることで熟練者を超える技術が出てくる可能性もある。技術革新にどうつなげるかを考えるのは研究としても面白い」と続けた。
AIが熟練者の“技”を学習することで、熟練者たちはより生産性の高い業務に集中できるようになる。三菱電機と産総研は、AIを活用することで熟練者がさらに力を発揮できるような環境作りを目指す。今後はFA機器やシステムにおけるAI活用の幅を拡大していき、日本が強みとするものづくりの分野で競争力を付けていきたい考えだ。
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