「大企業は時間を奪っている意識がない」 AIベンチャーが本音で激論、“丸投げ依頼”の次なる課題:これからのAIの話をしよう(AIベンチャー対談編)(4/4 ページ)
AIベンチャーの立場で、日本企業のAI開発に物申す! 人工知能の対話エンジンなどを開発する田中潤さんと、AI開発の現場に詳しいマスクド・アナライズさんが「昔ながらの大企業でAI導入がうまくいかない理由」や「怪しいAIベンチャーを見破る方法」などについて語りつくした。
―― 以前にマスクドさんを取材した際、AIベンチャーの中には単なるSIer(※情報システム構築の際、企画・設計から開発、運用サポートなどを一括で請け負う業者)も混ざっていて、玉石混交だと言っていました。
マスクド AI関連の社団法人を立ち上げたと言っている企業が、実際は30年前に設立されたSIerだったりします。どんな人がその研究所に勤めて、どんな研究をしているのかは一切不明。そういう隠れみのを使って受託開発するのは、よくある話ですね。
田中 この手の話はAIに限らず、ブロックチェーンのような新技術もそうじゃないですか?
マスクド 先ほど田中さんがおっしゃった通りで、モノがないのでITの分野はハッタリが通じやすいんですよね。実績を出せと言われても「守秘義務があるから出せません」で済んでしまう。
田中 ハッタリをかまして「実績があります」「(機械学習で)90%以上の精度が出ました」と言っているベンチャーを見抜く方法がありますよ。「AIのデータを見せて」って言えばいいだけです。
独自でデータを収集し、訓練しないと実用レベルでは使いものになりません。研究レベルと実用レベルで精度を出すのは全然次元の違う話です。研究レベルで90%の精度を出すのであれば一般公開されているデータセットを使えばある程度いくのですが、実用レベルでAI の精度を90%出すとなると、独自に収集したラベリングデータが大量に必要になります。
これは音声認識、画像認識、文章解析どの分野でも大体同じで、データセットは数十万件というレベルで必要になるので「そのデータを見せてください」と言えばいい。別に個人情報を見たいわけではないですし、そうしたデータすら見せてくれない場合は疑った方が良いですね。
マスクド それは良い方法だと思います。
田中 自社でいかに良いデータをためているか。ここは量が膨大なのでプログラムみたいにコピペできないんですよ。これで「完全なうそ」と「マイルドな盛り」かは区別できます。
今回は、さまざまな企業からAI導入の依頼を受けるAIベンチャーの立場で、「ベンダーが抱える悩み」を中心にざっくばらんに語っていただきました。「依頼する側はベンチャー企業の時間を奪ないよう意識してほしい」「AI開発は一発OKではないので失敗を恐れすぎてはいけない」「怪しいAIベンチャーかどうか見破るには、データを見せてもらえばいい」など、現場ならではの視点が多く含まれていました。
後編では、「AI人材不足に悩む日本企業」「AI人材に必要な能力」「AIでビジネスをすることの難しさ」「他社の成功事例をまねしても意味はない」といったテーマで話していきます。
(後編に続く)
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
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