「AI人材がいません」「とりあえず事例ください」 困った依頼主は“本気度”が足りない AIベンチャーの本音:これからのAIの話をしよう(AIベンチャー対談編)(4/4 ページ)
AIベンチャーの立場で、日本企業のAI開発に物申す! 人工知能の対話エンジンなどを開発する田中潤さんと、AI開発の現場に詳しいマスクド・アナライズさんが本音トーク。
マスクド AIの本はいまだに刊行され続けていますよね。技術書はもちろん、ビジネス書も後を絶ちませんね。ただし事例本に載っているのは、大企業のごく一部の成功事例です。自社にも応用できるかどうかは難しい。「事例があるから私たちでもいけるんじゃないか」って勝手に妄想してる企業は多いですよね。
田中 事例があっても、そのやり方のままじゃうまくいきませんよ。持っているデータは会社によって違うんですから。僕がAIのセミナーを開くときは、口を酸っぱくして「データをどうためるかを考えろ」と言います。データ次第で何ができるか変わるのですから。
マスクド データの蓄積先が社内データベースという会社はいまだに多いじゃないですか。秘伝のタレみたいに、(データベース上で)テーブルやカラムを継ぎ足しているから管理だけでもすごく大変なのが実情でしょう。
昔からデータを蓄積している会社ほどディープラーニングをやっていくべきなんですけど、全く動きがないですよね。ポイントカードやクレジットカードの会社は、どれだけデータがたまっているのだろうなと。
田中 非常にもったいないですね。確かにそうした企業はビジネスチャンスを逃していますね。
マスクド 多分データはあるんですけど、使えるデータが少ないんですよ。例えば製造業で機械の故障予知をやりたいと言われてデータを調べたら、そもそも故障したときのデータがたまっていないんですよね。何のデータが必要なのか分かっていない。
田中 さっきの話に戻るんですけど、ビジネスの理解なんですよね。金もうけをできるデータサイエンティストか、データを読める金もうけが得意な人。両方を横断する能力が必要なんですよ。
―― AIを使って金もうけをするのはまだまだ難しい。
田中 2016年ぐらいの世間の認識は、どんなに難易度が高い内容でも「そんなのAIなんだから勝手にできるでしょ?」だったでしょう。しかし、いろんな会社がPoC(概念実証)を進めた結果、2018年になって意外とそれが難しいのが伝わりました。今年くらいからは、いろんな会社の本気度が試されるようになりますよ。それでもAIをやるのか、あるいはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など違う技術に目移りするのか。
対談を終えて
田中さんもマスクドさんも、まだまだ話し足りなそうな顔をしていましたが、2時間たっても話が尽きなそうだったので強制終了させていただきました。世界を変える技術に社会実装が追い付かないのは、AIに限らず古くからある話ですが、もっとAIなど世の中を変える技術に企業や社会が追い付いていってもよいのではないかとも感じています。
インターネットがまだ「PCオタクのもの」だった頃、家の中に「You got mail」という声が響くたび、親が「いつまでインターネットしてんの! タダじゃないんやで!」と怒っていたものでした。それが、いまでは1人1台スマートフォンを持つことが当たり前の時代になってきています。きっとAI自体も、10年後、15年後に「そういえば昔、AIが人類を滅ぼすといわれていたが……」などという笑い話になっているのでしょうか。
最後に、田中さんとマスクドさんに対談の感想をお伺いしてみました。
「オレたちがチャンピオンだ、永遠のな!」(田中)
「1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」(マスクド)
著者プロフィール:松本健太郎
株式会社デコム R&D部門マネージャー。 セイバーメトリクスなどのスポーツ分析は評判が高く、NHKに出演した経験もある。他にも政治、経済、文化などさまざまなデータをデジタル化し、分析・予測することを得意とする。 本業はインサイトを発見するためのデータアナリティクス手法を開発すること。
著者連絡先はこちら→kentaro.matsumoto@decom.org
著者より単行本発売のお知らせ
今最も注目を集めるデータサイエンティストの1人が、データの読み方に注目して「うそを見抜く技術」を解説します。世論調査の結果はなぜ各社異なるのか? アベノミクスによって景気は良くなったのか? 人手不足なのにどうして給料は増えないのか? 「最近の若者は……」論の誤り、本当に地球は温暖化しているのか? などなど。
新時代の教養「データサイエンス」の入門書として、数学が苦手な人、統計学に挫折した人にも分かりやすい一冊に仕上がりました。詳細はこちらから。
他に共著で人工知能における5年、10年、20年の展望を解説している「誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性」も。
関連記事
- 「大企業は時間を奪っている意識がない」 AIベンチャーが本音で激論、“丸投げ依頼”の次なる課題
AIベンチャーの立場で、日本企業のAI開発に物申す! 人工知能の対話エンジンなどを開発する田中潤さんと、AI開発の現場に詳しいマスクド・アナライズさんが「昔ながらの大企業でAI導入がうまくいかない理由」や「怪しいAIベンチャーを見破る方法」などについて語りつくした。 - 「AI開発ミステリー 〜そして誰も作らなかった〜」 とある大手製造業の怖いハナシ
“AIベンチャーで働きながらネットで情報発信しているマスクマン”こと、マスクド・アナライズの新連載がスタート。AI開発のリアルな現状をお届けします。第1回は、AI導入に踏み切ろうとするも、ミステリー小説並の恐ろしい事態になってしまうある大手製造業のお話です(恐らくこの物語はフィクションです)。 - AI導入はPDCAから“DGWA”サイクルへ
ビジネスの現場でよく聞く「PDCA」の4文字。AI導入においてはPDCAより適切な「DGWA」という新しい概念を提唱したいと思います。 - 「AIプロジェクトを担当してくれ」突然の上司のむちゃぶり あなたが最初にやるべきことは?
「ウチの会社でもAIを使おう」――急に上司からこんなむちゃぶりが飛んできたら、どうすればいい? AI初心者のビジネスパーソン向けに企業のAI導入について分かりやすく解説する新連載がスタート。 - 「開発の丸投げやめて」 疲弊するAIベンダーの静かな怒りと、依頼主に“最低限”望むこと
AI(人工知能)開発を丸投げするクライアントの「いきなり!AI」に苦悩するAIベンダー。データサイエンティストのマスクド・アナライズさんに、AI開発現場の実態と、依頼主に最低限望むことを聞いた。 - なぜ日本は人工知能研究で世界に勝てないか 東大・松尾豊さんが語る“根本的な原因”
なぜ日本はAI(人工知能)の研究開発で米国や中国に勝てないのか。ディープラーニング研究の第一人者、東京大学の松尾豊特任准教授が日本の問題点を解説する。 - “がっかりAI”はなぜ生まれる? 「作って終わり」のAIプロジェクトが失敗する理由
AI(人工知能)は「作って終わり」ではなく、その後の運用次第で成否が決まると言っても過言ではない。運用時に気を付ける3つのポイントとは。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.