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TikTokはなぜ「位置」を集めるのか? ユーザー動画と位置情報が融合するとき動画の世紀(2/2 ページ)

若者を中心に人気のTikTokは、単なるショートムービーSNSではない。その目指すところは?

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データ収集と活用に力を入れるTikTok

 なぜByteDance は、TikTokに位置情報と連動するコンテンツを組み合わせようとするのでしょうか? もちろんそうしたコンテンツは楽しいですし、ユーザーにより楽しんでもらうというのが目的のひとつであることは間違いなさそうです。上記のような「ご当地フィルター」が各地で配信されれば、ポケモンGOのように、ユーザーをよりアクティブに行動させてアプリの利用時間を長くすることができるかもしれません。

 その一方で、ByteDanceはユーザー情報の収集と活用に熱心な企業であるという点にも注意が必要です。

 今年2月、かつてTikTokが米国でMusical.lyという名称で提供されていた際に、13歳未満のユーザーの個人情報を違法収集していたことが明らかになり、ByteDanceから米連邦取引委員会(FTC)に対して罰金570万ドル(約6億3000万円)が支払われたと発表されました(参考記事)。米国の法律では、13歳未満のユーザーから個人情報を収集する際には保護者の同意を求めているのですが、それを怠っていたのでした。

 その際に集められていたのは、ユーザーの個人名やメールアドレス、そして位置情報だったそうです。また2016年10月まで、アプリで得られた位置情報をベースに、半径50マイル(約80キロメートル)内にいる他のユーザーがわかるようになっていました。

 そのポップな見た目から誤解されがちですが、TikTok、そして運営元であるByteDanceは、高度なデータ処理技術やAI技術の活用に力を入れています。ByteDanceがTikTok以外に手掛ける主力サービスのひとつ「Toutiao」は、ニュースのアグリゲーションと配信を行うアプリなのですが、ユーザーのプロフィールや行動履歴に基づいて、最適なコンテンツを配信するアルゴリズムが組み込まれています。その結果、2017年の時点で1日のアクティブユーザー数が1.2億人に到達。当然ながらこうした仕組みはTikTokにも応用され、個々のユーザーがより「見たくなる」ような動画を表示することに役立てられています。

 ByteDanceはこうしたプラットフォームを多数保有しているのですが、それを通じて得た大規模かつ多様なデータセットを基にして、2016年にAIラボを開設しています。昨年11月には、ByteDanceはNBAと提携し、同社が持つプラットフォーム上でNBAのコンテンツを配信することを発表しているのですが、この際には「NBAはByteDanceのAIラボとAIの分野における最新技術やイノベーションを追求していくことを含めた『テクノロジー機能』の開発でも協力」すると宣言されており、彼らのAI技術に外部からも注目が集まっていると言えるでしょう。

 ByteDanceは今後、TikTokにおいてユーザーの位置情報の活用に力を入れる動きと見て間違いないでしょう。万が一、そうした意識がなかったとしても、GeoGifの機能を通じてユーザーの位置情報が蓄積されていけば、それを活用しないという選択肢は考えられません。

動画と位置情報マーケティングが融合する?

 実際にByteDanceは、今年3月25日から5月12日にかけて、高級ホテルの予約サービス「Relux」を運営するLoco Partnersと共同で「#Relux思い出 TikTokキャンペーン」というイベントを実施しています。これ旅の思い出を撮影した動画を、TikTok上で「#relux思い出」というハッシュタグと位置情報とつけて投稿すると、無料宿泊券やクーポンが当たるというもの。これもByteDanceが「位置」というテーマに関心を寄せていることの一例と言えるでしょう。

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 ユーザーがTikTokと位置情報を連動させることに慣れ、積極的に位置情報付きの動画を共有するようになれば、ByteDanceはそれを通じて位置情報マーケティングを進めることが可能になります。例えばTikTok内に表示される広告を、ユーザーの居場所や訪れた場所をベースにして、より特定のユーザーが興味を持ちそうな内容にカスタマイズできるでしょう。逆に特定の広告を配信した結果、実際にユーザーの行動(居場所)を変えることができたかという効果検証にも使えるはずです。

 既に前述のニュースアプリ「Toutiao」には、位置情報をベースにアラートをプッシュ配信する機能が備えられており、失踪者の捜索に役立てられています。特定の地域にいるユーザーを対象に、「Missing Person Alert」として捜索依頼メッセージを配信し、情報提供を待つ仕組みです。ByteDanceによれば、この仕組みを通じて、2018年7月時点で6500人以上の失踪者の発見に成功したそうです。大量のダウンロード者とアクティブユーザーを抱えるプラットフォームと、位置情報サービスが結びついたときの威力を感じさせる例でしょう。

 TikTokも全世界でのダウンロード数が10億件を突破しています(しかもこの数字には、中国の検閲上の理由から別サービスとして運営されている中国版TikTok「Douyin」は含まれていません)。この大規模なユーザーベースに位置情報を掛け合わせることで、どのような新しい価値が生まれてくるのか。その答えは、ここ数年のうちに私たちの前に現れてくるのではないでしょうか。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。


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