現金にはない「キャッシュレス決済」のリスク:ITりてらしぃのすゝめ(2/2 ページ)
政府も推進する「キャッシュレス決済」。現金を持ち歩かなくて済むのは便利ですが、その一方でキャッシュレス決済にはリスクも潜んでいます。
iPhoneで利用できるApple Payの説明ページを見ると、「Apple Payはデバイス固有の番号と独自の取引コードを使用します。だからあなたのカード番号は、あなたのデバイス上にもAppleのサーバにも一切保存されません。支払う時も、Appleがあなたのカード番号を加盟店と共有することは決してありません」という記載があります。これはApple Payの電子マネーで支払を行ったとき、クレジットカード番号そのものを利用しないことを意味します。そうなると、万が一の情報漏えい時にも、その漏えいした情報で不正な利用ができないため、より安全な仕組みだといえるでしょう。
もう一つのリスク 匿名性の欠如
ただし、クレジットカードなどを利用すると匿名性が下がるというデメリットもあります。例えば皆さんがいま持っている千円札が自分の手元に来るまでに、誰がどのように使ったかという履歴を追いかけることはできません。
しかし、クレジットカードは違います。当然ながら、カード事業者は、あなたが、いつ、どこで、何を買ったのかを知ることができます。これは当然といえば当然ですね。カード事業者によってはその情報を基に、ビッグデータ解析をする許諾をあなたから事前に受けているでしょう。だからこそ、そのリターンとしてポイントプログラムなどでの還元が行われているとも捉えることができます。
それだけでなく、実はその行動様式から個人を特定することも可能だという論文も出ています。2015年に米科学雑誌「サイエンス」に掲載された論文では、110万人、3カ月間のクレジットカードデータを解析することで、わずか4件の購買データから個人を特定できたとしています。
- クレジットカードの利用者特定、わずか4件の利用情報から 研究(AFPBB News)
- Unique in the shopping mall: On the reidentifiability of credit card metadata(Science)
ポイントだけに目を奪われないように
消費税が10%に増税されることを受け、政府がポイント還元制度を作って緩和するという報道もあります。その還元に電子マネーを活用しようという動きもあり、4月下旬からスタートする10連休を「キャッシュレスウィーク」と位置付けるという話も出てきました。ただ、この動きはあまりに性急すぎ、人によっては無視できないリスクやデメリットを、ポイント還元でごまかそうとしているようにも見えます。あまり国民が理解しないまま性急に対応が進んでいるという意味では、マイナンバーカード普及施策を思い出しますが……。
その点では、最近話題のQRコードを使った決済手段も気になるかもしれません。サービス開始時には割引クーポンが配布されたり、多額なキャッシュバックキャンペーンも開催されるなど、注目を浴びています。例えば最近ではオフィスに設置された置きお菓子の販売も、QRコード決済を使ったものが登場しているようです。これはなかなかスマートですね。
しかし、QRコード決済は支払いのためのQRコードの上に“偽のQRコード”を張り付けることで、その売上額を奪うことができてしまう問題があります。QRコードは(基本的には)人が読むことを想定していないので、フィッシングに弱いといえるでしょう。そのため、私も数回試しに使ってみてはいるものの、iDやSuicaが使えない場合に限って使うよう意識しています。
クレジットカードの(現金以外の)購買履歴は、ともするとプライバシーにおいて大きな問題が起きるものです。これを無視できない人は、現金主義を貫き通すのもいいでしょう。クレジットカードや電子マネー、現金利用にはそれぞれメリットとデメリット、リスクがあります。ポイント還元だけにとらわれず、それらを総合的に考え、最も適した決済手段を選択したいですね。
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