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元フィギュアスケート選手とディープラーニングの華麗な出会い 「選手の役に立ちたい」社会人大学院生の挑戦これからのAIの話をしよう(スケート編)(4/5 ページ)

プロでが見ても判断が分かれるフィギュアスケートの採点方法にAIを活用できないか? 元フィギュアスケート選手の廣澤聖士さんは、ジャンプの回転不足に着目して映像分析を進めている。

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 具体的には回転不足なしが434件、軽度回転不足が137件、重度回転不足が28件という不均衡データだったため、当然ながら全て「0」と予想すれば精度は上がります。

フィギュア
データに偏りがあった

 その後、不均衡データに対する処理として、少ないクラスの予測を間違えるとペナルティーが大きくなるよう調整したりした結果、きちんと予測できるようになったそうです。

 そこで得られた58%という精度については、どう捉えているのでしょうか。

 「予想より精度は出たなと感じました。一方で、発表後、転倒を回転不足として認識しているんじゃないかという指摘をもらいました。実際は転倒していなくても回転不足の場合がありますがデータ数が少ないため、現段階では機械がそのように学習している可能性はあります。今後データ数確保とモデルの改良を加えることで精度を上げていきたいです」(廣澤さん)

 一方で青木教授は「良くやったな、という感想に尽きます」と評価します。「やってみないと分からない内容だったので、最初の結果を出したことがものすごく重要です。曖昧で正しいかどうか分からないという質の問題があるものの、量を増やしていけば多少ミスがあったとしても、機械学習にかければ、それなりに学習してくれるはずです」(青木教授)

「学習データが足りない問題」にどう向き合うか

 現時点で「人間の判定が間違いで機械の判定の方が正しそう」というレベルなのかを問うと「そこまでは到達していない」(廣澤さん)そうです。

 「データが不均衡すぎるので、回転不足のデータをもう少し加えて精度を上げたいです。回転不足と一言でいっても、その後きれいに着氷したパターン、転倒したパターンなどさまざまです。ジャンプの種類も挙げればキリがありません。いろいろな種類の回転不足データが欲しいですね」(廣澤さん)

 筆者は、データセットの総数が約600件しかないことがやや気になりました。野球やゴルフなどと比べ、プロレベルの選手数も少なければ、そもそも試合自体も少ないので、データの量は担保しづらいはずです。加えて、テレビで放送された映像データを使う場合、同じジャンプでもカメラの視点が異なるため、データの質や分析結果の担保も気になるところです。

 量について、廣澤さんは「コンピュータビジョンの国際会議であるCVPRのスポーツセッションで話された内容をベースにしていますが、問題設定が自分のものと違うものでも、データ数の多い競技では400ぐらいでやっています」と述べます。どれくらいやれば良いか分からないので、まずはやってみるという状態だそうです。

 質については、青木教授が次のように述べます。

 「ある人が何か動作をしている映像から、正常なのか異常なのかを区別する行動認識という考え方があります(例:監視カメラの映像から万引しそうな人を検知)。実際は怪しい動きをする人なんてほとんどいないので、普通のデータしか集まりません。正常なデータだけを学ばせて、そこからどれくらい乖離(かいり)しているか見て異常を判定するアプローチもありますが、課題感としてはそれに近いでしょう。ただしその場合、視点を固定したカメラで撮影する必要があります。今回は放送映像を対象にしているので、試行錯誤が必要です」

 データの量・質ともに課題は多くありますが、それも実装したからこそ見えてきたものです。さらなる挑戦に期待がかかります。

機械による採点に“納得感”はあるのか

 ちなみに、元フィギュアスケーターである廣澤さん自身は、人間のジャッジに対して「この判定はおかしい」と感じたことはあるのでしょうか。疑問をぶつけると、「誤審という発想がそもそもない印象なので、何とも言えません」という答えが返ってきました。

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