アバターの見た目で人格が変わる? “VR版コミケ”に約13万人、バーチャルと現実を行き来する人々の可能性
VR空間で3Dアバターや3Dモデルを販売する「バーチャルマーケット」に注目が集まっている。3月に行われた同イベントには約13万人もの人が集まった。多くの人が“仮の姿”で集まる可能性とは。
二次創作の同人誌やオリジナルグッズなどを持ち寄る同人即売会といえば、夏と冬に開催される「コミックマーケット」が有名だが、そんなイベントをVR(仮想現実)空間で行う試みに注目が集まっている。3月に開催されたそのVRイベントでは、約13万人が仮想アバターに身を包み、VR空間上に作られたイベント会場に詰めかけたという。年齢や性別に関係なく、物理的な距離を超えて、仮想の場所に“仮の姿”で集まる人々の可能性とは。
VR空間で行われる即売会「バーチャルマーケット」
VR開発などを手掛けるHIKKY(東京都渋谷区)が仕掛けたのは、展示即売会「バーチャルマーケット」だ。VR空間で他のプレイヤーと交流できるソーシャルサービス「VRChat」上で、3Dアバターや3Dモデルを試着したり、気に入った商品を別途Webサイトで購入したりできるイベントだ。
2018年8月に第1回、19年3月には第2回を開催。3日間行われた「バーチャルマーケット2」には、12万5000人もの来場者を集めるなど、リアルイベントにも引けを取らない規模に成長した。
そんなイベントでは一体何が売られているのか。それはVR空間でプレイヤーが装着できる3Dアバターやアクセサリーの3Dモデルだ。VRChatのようなソーシャルVRゲームでは、プレイヤーが操作する(身にまとう)キャラクターとしてアバターを使う。最初から用意されているアバターもあるが、見た目が自身を表すアイデンティティーになることや、「VRゲームタイトルを問わず同一のアバターを使いたい」というニーズから、オリジナルアバターを求める声は多い。
ただし、アバターを一から作り上げるには、3Dモデリングに関する専門知識が必要だ。そこでバーチャルマーケットでは、出展者が持ち寄った3Dアバターなどを来場者がその場で試着し、気に入った商品を外部のWebサイトを通じて購入できる環境を整えた。まさにVRのためのVR展示即売会となっている。
バーチャルマーケット2には、400以上の出展ブースが並んだ。中にはイベントを協賛したセブン&アイ・ホールディングスが出展する企業ブースもある。
主催したHIKKYの船越靖さん(代表取締役)は、バーチャルマーケットについて次のように説明する。
「VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を付けて、アバターを身にまとった者同士が売り買いしている。一般的にはなじみがなく、閉じた世界の光景と思われるかもしれないが、実は普段触れているSNSとやっていることは変わらない。SNSのアカウントに3Dアバターを付けたようなもので、われわれは既にバーチャルっぽい生活をしている」
船越さんは、バーチャルと現実を行き来する生活スタイルに、並行世界と現実をつなげた造語として「パラリアル」と名付けた。今後もバーチャルマーケットに注力するとしている。
アバターの見た目は人間に影響を与えるという声も
昨今は自身のリアルな姿を公にせず、バーチャルYouTuber(VTuber)のような架空のキャラクターとして活動する人々が目立つようになった。彼らの多くは、そのキャラクターになりきった1つの人格として表舞台に立っている。
バーチャルマーケットの記者向け説明会にパネリストとして登壇したSHOWROOM(東京都渋谷区)の前田裕二社長は、パラリアルの可能性について、次のような持論を展開する。
「日本の人口は減少傾向だが、世界と比べるとSNSなどで複数アカウントを持つ人が多く、人格の数は世界で一番多い。仮説として、人格が多いと国民1人当たりのGDP(国内総生産)が増えると考えている。例えば、麻雀を好きな経営者がいたとしても、経営者の立場ではギャンブルの話題は出しにくい。リアルがひも付いていないバーチャル人格を使えば、表現の可能性が広がり、麻雀好きな人のコミュニティー(市場)が作れるのでは」
学問の立場からも、アバターの見た目は人間に影響を与えるという声もある。
「見た目の変化が人間の心にも強く影響する」──そう話すのは、東京大学情報理工学系研究科講師の鳴海拓志さんだ。例えば、VR空間でアインシュタインのアバターを使うと、そのアバターを身にまとった人の認知課題の成績が向上したり、ノリのよさそうな軽快な姿の男性アバターを使うと太鼓を演奏するのがうまくなったりするという。
「現実世界でも、社長が社長になると(振る舞いが)社長っぽくなることがある。時と場所に合わせてアバターを使い分けることで、私たちの心がもっと自由になる、そんな社会がやってくるかもしれない」(鳴海さん)
次回の「バーチャルマーケット3」は、9月21〜25日の5日間で開催される。VRChat上に全6テーマ・15ワールドが会場として用意される予定で、出展者は過去最多の600サークル規模になる予定だ。今後もVRでのコミュニティー構築に興味を示す人は増加の一途をたどりそうだ。
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