感情を脳波で可視化、記者が体験 国内大手企業で活用進む
脳波測定により感情を可視化するシステムを、電通サイエンスジャムが5月7日に発表。Japan IT Weekで体験してきた。
自分が今どう感じているのか、自分でも説明するのが難しいことがある。まして他人のことならなおさらだ。
そんなあやふやな感情を、脳波測定により可視化するシステムを、電通サイエンスジャム(東京都港区)が5月7日に発表し、8日に始まったIT系の展示会「第28回 Japan IT Week 春 後期」(東京ビッグサイト、10日まで)で展示している。記者が実際に体験してみた。
テトリスをしている記者の感情は?
電通サイエンスジャムの新型システム「Valence-Arousal Analyzer」は、脳波計から読み取ったデータをグラフ上に表示し、被験者の今の感情を示すというもの。
まずバンド型の脳波計を頭に取り付け、数秒のキャリブレーションが終わるとすぐに感情の測定が始まる。
感情は、「ポジティブ・ネガティブ」を表す横軸と「活性・不活性」の縦軸で表されるグラフ上に点として表示される。例えば「ポジティブ」「活性」ともに高い位置には「興奮」「喜び」などがあり、「ポジティブ」でも「不活性」側に振れると「満足」「リラックス」などの感情となる。
この感情2次元モデルは1980年に提唱されたもので、これまで1万件以上の他の論文から引用されている信頼性の高いモデルだという。
脳波の計測にワクワクしている記者の感情を反映してか、グラフ上では「興奮」と「喜び」の間に点が表示されていた。
計測用に用意された「ゲームボーイポケット」で「テトリス」をプレイしてみる。
記者が黙々とプレイしていると、グラフ上では「ネガティブ」かつ「不活性」の方が示されていたらしい。記者はテトリスに集中していてグラフを見ていなかったが、結果は後で確認できた。感情としては「退屈」や「落ち込み」「眠い」辺りに弱く触れていた。
ゲームに慣れた人であれば、ゲーム中は「不活性」の方を指す傾向が高いそうだ。
実際に長年PCゲームをたしなんできたゲーマーである記者は、このシステムに自分を見透かされたような気がした。
実験前後の感情を見える化
電通サイエンスジャムは2013年に設立して以来、脳波を活用したマーケティングなど、科学研究のビジネスへの応用に取り組んでいる。
同社設立メンバーは過去に、脳波計を製造するニューロスカイと脳波で動かせるネコミミデバイス「necomimi」を共同開発しており、今回の測定デバイスもニューロスカイ製を使用。2軸のデータを取るため、特別に脳波の測定帯域を拡大してもらったという。
同社従来の脳波可視化システムでは、1秒ごとに測定したデータを時系列に見られる一方、閲覧者側にある程度の知識が必要だった。
「感情の可視化」に特化した今回のシステムは、感情を2次元グラフ上に表示するため、実験前後での感情変化を比較できる。あいまいな感覚や、アンケートによる主観的な評価に頼ってきたマーケティング分野での活用を見込めるという。
同社の木幡容子取締役は、「自社の感情可視化システムは既にさまざまな企業のマーケティングや開発に採用いただいている。医療・介護などへの応用も期待できる」と話す。
大手企業の商品開発で活用 老人ホームで高齢者の意思可視化
同社のシステムはこれまでも、国内のさまざまな業界で活用されている。
例えば、ブリヂストン製の「疲れにくいタイヤ」(Playz PXシリーズ)の実証実験や、アサヒ飲料「三ツ矢サイダー」の「爽快感」の数値化、サイゼリヤの新規メニューの食感研究などに、同社のシステムが用いられているという。
老人ホームでの活用も進めている。高齢者に測定デバイスを装着してもらうことで、本人が自由に話せなくても介護してくれる人に脳波で感情を伝えられる。「介護する側にとっても、見て分かるフィードバックが得られるため評判が良い」(木幡取締役)
うつ病の早期発見も?
木幡取締役は、「予防医学にも活用できると考えている」と語る。
例えばうつ病の発見にはアンケートが用いられるが、答えるのはあくまで当人の意思であるため、アンケート結果には主観的なバイアスがかかる。
脳波による感情可視化システムを用いれば「正直」な脳波からデータを取得できるため、従来の手法に比べてうつ病の早期発見や予防に役立てられるのでは、という考えだ。
【修正:2019年5月10日午後5時 一部文言を修正しました】
課題はノイズ 心拍計での感情可視化も検討
活用を期待できる分野は多岐に渡る一方、デバイスや脳波の取得方法には課題もある。
脳波は脳の電気的な活動の記録だ。しかし筋肉の動きも電気的な活動であることから、脳波を計測する上でのノイズとなる。
機械学習によってノイズを検知し取り除いているというが、激しい運動中などはノイズが強く入るため、測定が難しい場合もあるという。「例えば、せんべいを食べる瞬間はあごの筋肉に力が入るため、現状の測定方法では正常に脳波を記録できないだろう」(木幡取締役)
また、バンド型の脳波計はまだまだ大きいため、日常的に装着するのは難しい。
「心拍など、コンパクトなデバイスで取得できる情報で感情を可視化する方法も、今後模索していきたい」(木幡取締役)としている。
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