なぜPoCで終わる? AI活用の鍵は“目的志向”、富士通の考え
日本企業のAI活用がなかなか進まない現状に対して、富士通は「仮説設定と業務実装が重要である」と説明した。
「PoC(概念実証)の先へ行くために重要なのは、最初の課題設定と最後の実装部分だ」――富士通の渡瀬博文本部長(AIサービス事業本部長兼データ利活用推進室長)は5月14日の記者会見で、企業がAI活用で重視すべき点をこう指摘した。渡瀬本部長は「ほとんどの企業がPoCから先の実装の段階へ進めない課題を抱えている」と話す。
同社の調べによると、AIの活用でいまだに情報収集や企画段階にとどまる企業が8割以上を占め、PoC実施や実装段階まで進む企業は2割にも満たないという。矢野経済研究所が2018年12月に発表した調査では、AIを導入済みの企業は全体の2.9%(全515社)にとどまるという調査結果も出ている。
富士通は世界中の企業と連携して培ったAIプロジェクトの知見を生かし、同社のAI技術群などをフレームワーク化して提供することで、企業のAI活用をサポートする考えだ。同社はAIプロジェクトの工程を(1)目的の明確化と仮説の設計、(2)データ準備、(3)データ分析と効果測定、(4)業務実装と定着化、の4つに分ける。
渡瀬本部長は、一般的にAIプロジェクトでは(2)と(3)が重視される傾向にあったが、本当に重要なのは(1)と(4)であると指摘。「とりあえずデータで何かやってみたい」「データを使った新規事業をやりたい」といったふわっとした目的では、有効な仮説も立てられずうまくいかないという。
同社はプロジェクトの上流から実装部分まで顧客と伴走することで、AIの業務定着化を実現するとしている。顧客支援を通して得られた知見は形式化し、他のケースでも応用できるようにするという。
「『データを使って新規事業をやりたい』ではダメで、データを集めるには目的を明確にする必要がある。AIで新規事業を行うときは既存事業と分けて考えがちだが、経営の目的は会社全体の売上を上げることで、両者を分けて考える必要はない」(渡瀬本部長)
富士通は、目的の明確化と仮説の設計を「目的志向設定」と定める。渡瀬本部長は「目的志向は経営視点でも重要性が高まっている」とし、顧客企業自身で目的や課題を明確化することの重要性を強調した。
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