漫画ファン、どう増やす?――急成長の漫画アプリ「ピッコマ」が考える“紙とアプリの共存”
急成長する漫画アプリ「ピッコマ」。漫画ファンを増やすために「デジタルとアナログの融合」を意識して業界を活性化させるという。
「デジタルとアナログの融合で、漫画業界全体を活性化させたい」――カカオジャパンのキム・ジェヨン(金在龍)社長は、5月23日に開催した電子漫画サービス「ピッコマ」の事業戦略発表会でこう語った。
ピッコマは、大手出版社の人気漫画やオリジナル作品を一部無料で読める電子漫画・小説サービス。2016年4月20日のサービス開始から約3年がたち、アプリ版のダウンロード数は1500万を突破、提供する作品数は6700を超えた。キム社長は「ユーザー数、売上ともに漫画のような右肩上がりの成長を続けている」と話す。
「広告は入れない」 ピッコマの独自性
ピッコマは、一定時間待てば無料で漫画を読める仕組みを採用。課金すれば読みたい漫画をすぐに読める。他の漫画アプリでは有料チケットやコインなどを全作品共通で利用できるのに対し、ピッコマは有料コインを使って「作品専用チケット」を購入させる仕組みだ。
キム社長は、作品ごとにユーザーの行動ログを収集・分析することで「同じ作家の作品は親和性が高く、両方読む読者が多いなどの傾向も分かる」と話す。
「どの作品からどの作品に送客した方が効果があるか、一方しか読んでいない人に残りの作品をどう読ませるかなども、データから仮説を立てて検証できる」(キム社長)
またAI技術を使い、「閲覧転換率」(クリック数/表示数)が高まるような作品のレコメンデーションも行っている。ビッグデータを駆使して合理的な運用をする一方で、“アナログな部分”も大切にしているという。
キム社長は「全てをデータに依存すると、人は偏った作品ばかりを読む恐れがある」と話す。ピッコマでは、漫画一覧のサムネイル(単行本の表紙)を定期的に変更している。過去のデータを基にクリック率が上がるように画像を差し替えるが、3〜4割は手作業で行うという。
このように作品ごとの細やかな管理を意識するピッコマでは、ユーザーの読書体験を妨げないためにサービス内に広告を入れていない。キム社長は「広告を入れると月に2億円の売上が出るというシミュレーション結果が出た。しかし、漫画を読んでほしいと思っているユーザーにソーシャルゲームの広告を見せることは矛盾した行為に思える」と説明する。
「紙とアプリは役割が違う」
「漫画ファンを増やすには、紙と電子は競争するのではなく共存する必要がある」とキム社長は指摘する。同社と電通が共同で行ったスマートフォン利用者へのWebアンケート調査の結果では、紙の雑誌・単行本とアプリ漫画を併読する人ほど、漫画を読む時間や頻度、投資金額が高くなる傾向があったという。
キム社長は、紙雑誌・単行本と漫画アプリの「役割の違い」に注目する。「紙媒体は最新作をいち早く読むためのもので、単行本は気に入った作品をコレクションしてじっくり楽しむもの。漫画アプリは新しい漫画に出合えるもの」と定義した上で「それぞれの特徴を生かして共存関係を高めていくことで業界全体の活性化につながっていく、という仮説を持っている」と強調する。
書店の数が年々減少して紙の漫画に触れる機会が少なくなる中、漫画アプリを通して新しい漫画との出合いを提供し、漫画ファンを増やしていきたい考えだ。
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