NECは5月27日、AI技術を活用して、がん治療などに特化した創薬事業に本格参入すると発表した。患者自身の免疫系を利用してがんを治療する「がん免疫療法」に注目。AIを使って患者ごとのがん治療用ワクチンを開発する。
ワクチン開発の鍵になるのは患者ごとに特異的な「ネオアンチゲン」(がん細胞の遺伝子変異に伴って生まれたがん抗原。がん細胞特有の目印)で、NECが開発した「ネオアンチゲン予測システム」で患者ごとに有望なネオアンチゲンを選定し、ワクチン開発に役立てるという。予測システムのAIエンジンでは、NECが独自に蓄積してきたMHC結合活性の実験データ(ペプチドとHLA分子)による学習に加え、ネオアンチゲンの多面的な項目を総合評価して患者ごとに有効そうなネオアンチゲンを選ぶ。
取り組みの第1弾として、パートナー企業であるフランスのバイオテクノロジー企業Transgeneと共同で、卵巣がんの臨床試験(治験)を米国で実施する。患者から採取した正常な細胞とがん細胞の検体情報を基に、NECの予測システムで治療に有効なネオアンチゲンを選定、Transgeneが患者ごとに適したネオアンチゲン・ワクチンを合成し、患者に投与する――という流れだ。
2019年4月に米国食品医薬品局(FDA)から治験実施の許可を取得済みで、イギリスとフランスでも卵巣がんと頭頸部がんの治験許可について申請中だ。
目標は「1カ月でワクチン開発」
NECはこれまで高知大学や山口大学とがんの創薬研究に取り組んできたが、近年はゲノム解析技術の発展で、AIによる膨大なデータ処理が求められているという。NECの藤川修執行役員(ビジネスイノベーションユニット担当)は、「NECはAI技術の蓄積と、免疫系の専門家と築き上げた質の高いデータベースを作る仕組みなどがある」とし、より安全で効果の高い先進的免疫治療法の開発を決めたと話す。米国で行う治験では、検体採取からワクチン投与までを1カ月で行えるようにするという。
藤川執行役員は「2025年に創薬事業の事業価値を3000億円まで高める」としているが、同時に「販売(できるか)は治験の結果によるため、売上や利益の見通しなどは明言できない」とした。
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