そもそも人間という生き物は、違和感や不安、脅威に反応しやすくできている。おそらく人は、自然界のなかでそのように進化してきたのではないか。
何しろ人間は(武器を持たなければ)生物としては非力だ。例えば、獲物をいちど見逃しても、しばらくは生きていけるだろう。だが、脅威はいちどでも見逃すと致命的だ。したがって人は、楽しいことや嬉しいことよりも怖いことや不安など、自分にとって脅威になり得ることに敏感になる。それが生き残るための術であり、平穏に暮らしていくために必要な感覚なのだ。
かくして人は多かれ少なかれ、不公平や不正、失礼な行為に敏感になり、集団内の秩序を守るために「正義の人」として振る舞うことを是とする。
そんな正義感の強い人が、インターネット上の書き込みを読んで、何らかの違和感や嫌悪感を覚える。それが炎上の出発点になっていくのだ。
例えば、ある女性タレントが「今日、撮影帰りに衣装のまま電車移動していたら、30歳ぐらいのおじさんに注意されてムカついた」といった投稿をしたと仮定しよう。
ある正義感の強い人が、その投稿をたまたま見かけてイラッとする。彼は、その投稿がなぜ不快だったのかを考えるだろう。単純に「その投稿が何となく嫌」というのではなく、その不快感を明確にして言語化しようとするのだ。
「30歳って”おじさん”か?」「そもそも電車に乗るときは周囲への配慮も必要じゃないか?」「そもそもタレント活動しているのに発言が上からすぎないか?」など。単なる感情論や個人的な価値観からの指摘ではなく、あくまで「公的な意見」として自分を正当化して指摘することが多いのだ。彼は、決して悪意からではなく「正しいこと」としての指摘を行っているわけなのだ。
では、こうした正義感の強い人は、どういったときに違和感や不快感を覚えて「イラッ」とするのか。個人の感情を揺さぶるだけではなく「正義感」に駆られるのはなぜなのか。私はそこに、自分が属している集団に対する人びとの意識が関係していると考えている。
次回は、こうした集団における人間の心理を読み解く上で欠かせない「集団内ヒエラルキー」「帰属意識」「内集団バイアス」という3つの視点から、炎上にいたる心のありようを整理していきたい。
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