「この虫の名は?」すぐ解決 20万匹の害虫画像を学習した、駆除を支える「クラウド×AI」がスゴい(2/3 ページ)
大阪に拠点を置く、害虫駆除機器の専門商社「環境機器」が、害虫の画像を自動で取得し、名前を判定するサービス「Pest Vision」を開発。画像は、Amazon Web Services上に構築したAIを使って分析している。環境機器の担当者に、その仕組みと精度について聞いた。
AI×クラウドで害虫を自動分類、精度は95%
Pest Visionは、このモニタリングから分類までの作業を最新技術を使って自動化している。具体的には、環境機器が独自開発したセンサーをライトトラップの近くに設置し、捕まえた虫の画像を取得。インターネットを通じて、Amazon Web Services(AWS)上に構築したNoSQLデータベース「Amazon DynamoDB」に集約している。
集約した画像データは、仮想サーバ「Amazon Elastic Compute Cloud」(EC2)上に構築したAIで解析。写っている害虫の種類と数を認識した上で、「クロバネキノコバエが28匹、ニセケバエが12匹……」などと、駆除業者に1日1回のペースで知らせる。虫の量が一定数を超えた場合に、メールなどで駆除業者に通知できる。
虫の画像は、捕まえた時間のデータにひもづけて管理するため、捕獲数の時系列変化をグラフ化して示すことも可能。駆除業者は、依頼主に「工場の搬入用シャッターが開いている時間帯は、やはり虫が増えます。防虫カーテンを導入してみてください」といったフィードバックを行えるのだ。
分類の精度は“職人超え”、約1ミリの虫でも正確に識別
一連のシステムには「AWS Lambda」で実装したサーバレスアーキテクチャを採用しており、保守などの作業は不要。センサーや画像の量が増えた場合に、AIへの負荷が集中し、システムがダウンすることを防いでいる。
虫を分類するAIはかなり強力で、例示した害虫の他、チョウバエやノミバエなど計19種類の画像を、約20万匹分学習済み。分類の精度(95%)は職人の手作業の精度(85%)を上回っており、1ミリ程度の虫でも正確に識別できるという。
分類に要する時間は、手作業の10分の1程度。職人はスマートフォンなどで外出先から分析結果を閲覧できる他、結果を出力するだけで報告書を作れるため、害虫駆除などの本業に集中できるメリットもある。
亀本さんは「図鑑通りの姿で捕まっている害虫は1匹たりともおらず、分類は誰でもできる仕事ではありません。(負担が重いため)職人になろうとする人は多くありませんでしたが、(Pest Visionの活用によって)人手不足の解消につながります」と目を輝かせる。
また、Pest Visionはネズミの駆除にも活用できる。工場や倉庫にカメラを設置し、ネズミの出現をAIに検知させ、映像をユーザーのPCなどに転送する仕組み。駆除業者は侵入経路にトラップを仕掛けるなどの対応を採れる。
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