巨大SNS企業が、国家を滅ぼす――アニメ「ルパン三世 PART5」は“官僚の教科書”だった:アニメに潜むサイバー攻撃(5/6 ページ)
そう遠くない未来、現実化しそうなアニメのワンシーンをヒントに、セキュリティにもアニメにも詳しい内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の文月涼さんが対策を解説します。第9回は「ルパン三世 PART5」を再び取り上げます。
K: うっ、これは何となく分かりますよ。ベネズエラですよね?
F: そう、この場合は国家主導ですが、経済制裁により価値の棄損(きそん)した通貨の代わりに、Bitcoinが一部用いられている。その方が安全になってしまったからです。価値の裏付けのない仮想通貨ですらこうなり得るわけですから、これがドルや各国の主要通貨のペックされた、その国の人口よりも利用者が多い仮想通貨ならば、より武器として強くなる。
主導するSNS企業に攻撃の意図がなくても、こういった仮想通貨が「国の通貨はもうおしまいだ。それに対してこっちの仮想通貨は利用者も多く、そしてどの国にも縛られない安全資産だ」と宣伝する「誰か」の作戦に「利用される」可能性はあるでしょう。その結果、対象となった国は、通貨という統治能力を失うかもしれない。
K: SNS自身が意図せず、「誰か」によって米大統領選挙に対する攻撃に使われたように?
F: そう。意図せずね。さらにこの仮想通貨、金融当局がテロなどのマネーロンダリングに使われる可能性を排除できないと規制に動きを見せています。何でかというと、SNS企業側は「いま現在、口座を持てない人が世界中にいる。そういった人でも使えるようにする」というあたりにあるのではと思っています。Kさんは、そういった人たちが使っているスマホのセキュリティ状況はどうだと思いますか?
K: セキュリティアップデートがなく、穴だらけ?
F: そう。先進国でさえセキュリティの穴が開いたままで、最新のOSにアップデートされないスマホがゴロゴロあるのに、推して知るべしですね。そんな中でとてつもない数の同じプログラムで仮想通貨のウォレットを作ったら、「少ない労力で多く稼げる」という経済的ハッカーの攻撃フラグが立つでしょう。そして、そういった経済的ハッカーだけでなく、私ならbotであらかじめ乗っ取っておいて、必要に応じてテロ資金を仲介する経路に使うでしょうね。使い捨てにしても掃いて捨てるほど数があるわけですから。
つまりサービス提供側や利用者にその意図がなくても、乗っ取られて攻撃やテロ資金移動、マネーロンダリングに使われる可能性が拭えない。過去にSNSのアカウントを乗っ取られまくったり、架空のアカウントを作られまくったりして、いまだ根絶できずモグラたたきを続けている状況で、仮想通貨を作ります、ウォレットを作ります、今度はセキュリティはばっちりですといわれても、信じられますか?
K: うっ、だとしたらどうするんですか?
F: 情報をまとめてレポートにして、国家、国民に対して重大な影響を与える可能性があると懸念を上司に伝えた。アルベールのように。シェイクハンズ社がテロ組織に認定されたのは、エンゾが意思を曲げなかったことが、確信犯であると捉えられ、それが国家へのテロの意思とこじつけられたのでしょう。現実世界の話はそうではなく、「本人たちは意図せずとも、そういった輩に利用される可能性があると懸念する」ということです。
K: ぎょええええ!
F: まあ私が書いたものが、政府の素早い反応を生んだなんて微塵(みじん)も思っていませんが、私の上司に懸念を伝えるに当たって、彼がルパンを見てくれていたので話が早かったですよ。ははは。それに、わりかし今回は各国政府の動きが早かったので、同じように動いた人が多数いたのでしょう。その人たちがみんなルパンを見ているわけではないでしょうが、こういったフィクションに学べというのは世界のトレンドですよ。
でも少なくとも僕の周りでは、ルパン三世 PART5は「官僚は、アニメに学べ」を地で行くストーリーだという認識です。特にサイバーセキュリティやSNS企業に関しては示唆に富む教材でした!
もう1つの懺悔
F: 実は、もう1つおわびしないといけないことがあります。
K: あれですね。
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