最終的に、VR酔い対策の1つとして、視線を誘導するオブジェクトを表示させることを決断。滑走路の場面などで、自機の前方を味方の機体が走行する演出を採用した。これにより、「前方の機体が右に曲がったら、この先で自機も右に曲がる」というように、プレイヤーが動きを予測できるよう工夫した。
離陸後の空中戦では、コックピットの画面に敵機の方向を示すアロー(矢印)を表示し、プレイヤーの視線を誘導した。「幸いなことにエースコンバットでは、敵機がいる方向と、これから自機が進む方向が一致するので、酔いの軽減につながった」(山本さん)
ベイルアウトの演出もあえなくボツに
この他、ゲームへの没入感を重視するため、仕方なくボツにしたアイデアもあった。当初はプレイヤーが撃墜された際、キャラが座席ごと機体の外へと射出され、パラシュートで降下する演出(ベイルアウト)を検討していた。山本さんは「面白いアイデアだったので採用したかったが、ゲーム全体の流れを考慮して断念した」という。
「爆発寸前の自機から脱出すると、プレイヤーの心情としては『パラシュートが開いてよかった』と緊張の糸が途切れてしまう。だがゲーム内ではその後、空中戦の場面に戻ってもらう必要があり、プレイヤーの心情とゲーム進行に乖離(かいり)が出てしまう」
最終的に採用した演出は、ダメージを受けるたびに警告ランプが鳴り、墜落直前になるとコックピットに煙が充満する──というもの。山本さんは「煙が出始めてから墜落するまで、約10秒間の演出を用意した。やや長いかもしれないが、ただ画面が暗転するだけだと、プレイヤーは自分が撃墜されたことを認識できず、(そのままゲームが再開されて)没入感が損なわれると判断した」と説明する。
エースコンバットの開発に生かされた「ゲーム内の表現方法を誤るとプレイヤーの違和感につながる」「プレイヤーとゲームの進行に温度差があると没入感が薄れる」という知見は、山本さんがかつて「サマーレッスン」を開発する中で学んだことなのだという。
サマーレッスンでも、キャラクターが一方的に長話をすると、プレイヤーが置いてけぼりになり、現実世界に引き戻されてしまう──という懸念から、せりふのテンポを細かく調整した経験があったという。エースコンバットでは、同様に小さな違和感を1つずつ解消するブラッシュアップ作業に時間を割くことで、没入感が上がっていくことを実感したという。
山本さんは、エースコンバットの開発を振り返り、「『捨てる覚悟』を持って試作を繰り返し、その上でブラッシュアップに十分な時間をかけるという開発方針を、最初から最後までやりきったことが(納得いく内容にする上で)大切だった」と語った。
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